研究課題/領域番号 |
21K16028
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
大和田 渉 札幌医科大学, 医学部, 助教 (70896589)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ドキソルビシン心筋症 / ドキソルビシン / ネクロプトーシス / ミトコンドリア / フェロトーシス / オートファジー / アントラサイクリン / MLKL |
研究実績の概要 |
2021年度はドキソルビシン投与におけるネクロプトーシスシグナル経路を中心に、一部網羅的に細胞死の解析を行い、以下のような知見を得た。 本研究で作成したドキソルビシン心筋症モデルマウスにおいて、14日目時点で有意に死亡率が上昇し、8日目時点での心エコーおよび動物用MRIでの左室駆出率は有意に低下した。また、native T1 mapping値は有意に低下しており、左室心筋における脂質や鉄の沈着が示唆された。ドキソルビシン投与によりネクロプトーシスの実行蛋白と考えられているMLKL蛋白は心筋で有意に上昇していることがウェスタンブロットにて確認された。また免疫染色にて活性型MLKLであるSer345-phospho-MLKLも有意に上昇していた。このことからドキソルビシン投与によりマウス心筋でネクロプトーシスの活性化が示唆された。 同様にCleaved-caspase3の低下やBAD、BAXの上昇からアポトーシスの亢進、リン酸化mTOR、LC3Ⅱ/LC3Ⅰの上昇とp62の低下からオートファジー障害、さらにGPx4の低下からフェロトーシスの活性化が示唆され、ドキソルビシンによる心筋障害には複数の細胞死機序が関与していると考えられた。 培養心筋芽細胞を用いた実験ではドキソルビシン投与によりネクローシスの指標である培養液中のLDHは有意に上昇していた。これはMLKLノックダウンにより有意に抑制されたが、一方で古典的ネクロプトーシス経路においてMLKLを調節するRIPK1の阻害薬であるネクロスタチン1を投与してもLDHは抑制されなかった。以上から培養心筋芽細胞においてもドキソルビシン投与によるネクロプトーシス活性化が示唆されたが、これはRIPK1非依存性経路による可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ドキソルビシン心筋症モデルマウスの樹立とネクロプトーシスシグナルを中心とした細胞死機序の活性化を確認できた。各細胞死の相互連関およびミトコンドリア内シグナル経路についての解析は今後着手する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、①ドキソルビシン心筋症モデルマウスに心筋のミトコンドリア抽出による、ミトコンドリア内の細胞死誘導蛋白の解析、②現在までに知見を得たRIPK1非依存性ネクロプトーシスについて、過去にTNFαによるネクロプトーシスなどで報告されているTRIFやTRAFなどの分子相互作用をウェスタンブロットを用いて解析、③MLKLノックアウトマウスを用いたドキソルビシンによる心筋内細胞死シグナルの相互機序の解析、④オートファジー障害の関与も明らかとなったため、mTOR阻害薬であるラパマイシンを用いてネクロプトーシスを含めた細胞死機序連関の解明を目標に研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計上していた旅費がオンライン開催などになったことにより未使用となったことと、物品類については予測していた設備備品が購入をしなくても使用が可能であった。また一部の抗体実験やミトコンドリア実験などは着手できておらず、その部分で未使用となった。本年度は学会が現地開催になりつつあり予定通りの使用が予測され、未施行の実験についても着手を計画しており使用できなかった予算を繰り越して使用する予定である。
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