心不全の病態の根幹には、エネルギー基質である脂肪酸や糖の利用障害をはじめとした心臓エネルギー代謝異常が存在する。心不全では体内でケトン体の産生亢進が生じるが、このケトン体による心保護効果に近年注目が集まっている。これまでに申請者らは、ナトリウム利尿ペプチド(NP)が血行動態制御作用に加え、生体温度調節や糖代謝制御などを介して心保護的に作用することを見出した。今回、まず臨床研究において、心不全患者の血中NP濃度がケトン体濃度と強く相関することを示した。これにより、重症心不全時にNP が心臓エネルギー基質としてケトン体利用を亢進させる因子となりうることを示した。 次に、このNP補充療法が心不全患者の糖代謝に及ぼす影響について検討を行った。 アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)は、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)とネプリライシン阻害薬の2つの成分からなっており、内因性のNPを増強することでNP補充療法としての効果が期待される心不全治療薬である。慢性心不全において、通常の治療薬であるACE阻害薬またはARBをARNIに切り替えることにより、インスリン抵抗性に関する各パラメータ(血糖値、インスリン値、など)が有意に改善した。これによってARNIは慢性心不全患者においてNP補充療法としてインスリン抵抗性を改善させる役割を果たすことが示された。 さらに高脂肪食負荷(HFD)肥満モデルマウスにNPを持続投与することで、脂肪肝を改善させ、白色化したBATのre-browningを介し、全身のインスリン抵抗性を改善させることを示した。心臓局所においても、NPがミトコンドリアへの脂肪酸過負荷を軽減し、インスリン抵抗性を改善させることを示した。
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