本研究の目的は,ヒト肺静脈心筋を用いて、心房細動の発生源における、過分極活性化電流や内向整流性カリウムチャネルの生理機能を解明し、これらの電流が どのように心房細動の発生に関わっているのかを明らかにすることである。これまで、15症例より肺静脈心筋を採取し、3例でパッチクランプ法により電気生理学的評価を行うことができた。セシウムによりブロックされる過分極活性化電流を認め、ヒト肺静脈心筋においても過分極活性化陽イオン電流(funny current)を有していることが示された。活性化曲線においては、V halfは-88.499±1.38 mVであった。 また、採取した検体の一部を用いて、RNA-seqにより6つの心臓領域におけるタンパク質コードRNAとロングノンコードRNA(lncRNA)の発現量を解析した。心房細動の有無で最も変化する部位は、心房ではなく心筋部位のうち肺静脈であることがわかった。統計学的に有意である遺伝子を解析したところ、イオンチャネル関 連遺伝子セットが有意に心房細動患者の肺静脈心筋に濃縮されていた。また、がん関連lncRNAは、心房細動のあるPVで発現が増加した。共発現ネットワーク解析 により、タンパク質コード遺伝子とlncRNAが機能的に結合している機能クラスターを検出することができた。本研究は、(1)RNAの変化がPVで最も大きく、 (2)FOXCUT-FOXC1軸のような後天的な遺伝子制御が、心房細動の進行に寄与する可能性を示唆した。
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