研究課題/領域番号 |
21K16076
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
大瀧 陽一郎 山形大学, 医学部, 助教 (80732693)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | PlexinB1 / 心不全 / 病的心肥大 |
研究実績の概要 |
心不全は増加傾向にある日本人の重要な死因である。心不全では、病的心肥大が生じるが、その機序は十分には解明されていない。近年、心不全で、血中セマフォリン4D濃度が上昇することが報告された。プレキシンB1はセマフォリン4Dと結合するセマフォリンの受容体である。プレキシンB1は構造上、Rhoグアニンヌクレオチド交感因子(guanine nucleotide exchange factor; GEF)/RhoシグナルやWnt/βカテニンシグナルを介して心肥大に関与する可能性がある。予備実験で圧負荷心不全マウスでは、プレキシンB1の発現が増加していた。これまで、心疾患においてプレキシンB1の役割は検討されていない。本研究では、病的心肥大におけるセマフォリン4D受容体プレキシンB1について、アンジオテンシンII心肥大モデルおよび大動脈縮窄手術による圧負荷モデルを用いて検討を行う。セマフォリン4D-プレキシンB1経路を標的とした薬物・遺伝子介入により、新しい病的心肥大抑制治療薬の開発を目指す。 2022年に実施した実験では、新生仔ラット心筋細胞とH9C2細胞において、AngII刺激を行いPlexinB1が細胞質内に増加する知見を得た。また、Plexin B1を過剰発現すると、AngII刺激に対して、ERK1/2やAktなどのリン酸化が亢進した。逆に、PlexinB1をknockdownすると、リン酸化が抑制された。RhoGEF経路に対する影響は概ね検証できている。 動物実験において、大動脈縮窄手術を施行したところ、28日の段階で免疫染色でPlexinB1の発現が亢進していた。現在、心筋特異的PlexinB1過剰発現マウスを繁殖中であり、F2が増えてきており同マウスにTACを実施し始めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新生仔ラット心筋細胞およびH9C2心筋細胞を用いて、プレキシンB1とセマフォリン4Dの発現をmRNAとタンパク質レベルした。PlexinB1は、心肥大刺激(Angiotensin II, Endothelin 1, Wnt3aなど)を行うと細胞質レベルで増加したが、mRNAレベルでは変化しなかった。そのためエンドソームに取り込まれて細胞質内に移動している可能性が示唆され現在検証を続けている。遺伝子導入やsiRNAによりプレキシンB1をoverexpressionまたはknockdownした心筋細胞に心肥大刺激を加えたところ、ERK1/2やAKTのリン酸化に影響を与えた。Sema4Dの影響を検討するために、PlexinB1を過剰発現した上で、Sema4Dを投与する実験を計画している。 Sema4Dのプラスミドを購入し、Sema4Dを培養細胞で過剰発現することを確認した。マクロファージ細胞株であり、Raw cellにトランスフェクションし、上清中にSema4Dが分泌されてくるか確認を行っている。 当初、心筋特異的PlexinB1ノックアウトマウスを作成する予定であった。ノックアウトマウスでは、PlexinB1の共受容体の検証が難しいと判断し、αMHCを用いて、心筋特異的Plexin1過剰発現マウスを作成した。現在、F2に対してTAC手術を開始している。ベースラインでは、心機能や心肥大、体重などに差はなかった。もともとPlexinB1とRhoGEFが結合することやDvl1と結合することは確認している。同マウスにおいてTAC前後でRhoGEFやDvl1との結合が変化するかプルダウンアッセイを行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
動物実験においては、心筋特異的PlexinB1過剰発現マウスを野生型マウスと比較するために、心組織を8から12週齢で採取し、RNA sequenceを予定している。これにより、まず受容体であるPlexinB1を発現することで変化する遺伝子群を同定する。また、現在F2に対してTACを行っているが、TAC後の遺伝子発現をPlexinB1過剰発現マウスと野生型マウスで比較検討を行う予定である。変動遺伝子を同定することと並行して、蛋白質相互作用を検証していく。ベースラインで、PlexinB1はDvl1と結合しており、TAC後にRhoGEFと結合することはデータとして得ている。TAC前後で相互作用する蛋白質の変化を検討していく。心肥大に関しては、TAC28日後の心筋重量脛骨長比や心臓超音波検査における壁厚を評価する。また、WGA免疫染色を行い、心筋細胞のクロスセクショナルエリアを評価する。 細胞実験では、PlexinB1を過剰発現またはノックダウンした状態で、AngII刺激とSema4D刺激を行っていく。また、エンドソーム内に移動していく様子を蛍光免疫染色で評価する。初期エンドソームの特異的マーカ-であるEEA1とマージするか検証する。PlexinB1が心筋細胞肥大に与える影響を検討するためにクロスセクショナルエリアを評価する。また、Myh7のmRNA発現を比較検討する。Sema4Dのプラスミドを用いて、Sema4Dを培養細胞で過剰発現することを確認した。マクロファージ細胞株である、Raw cellにトランスフェクションし、上清中にSema4Dが分泌されてくるか確認中である。上清中のSema4Dが増加することを確認したら、TranswellでRaw cellとH9C2細胞を共培養を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究にて消耗品を購入し残金が生じたが、少額であり、次年度に繰り越し使用いたします。
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