研究課題
本年度は、LMNA変異拡張型心筋症(DCM)患者から樹立したiPS細胞由来心筋細胞(iPSCM)を用いてDNA損傷マーカーγH2AXの評価を行うアルゴリズムを確立、薬剤投与の実験を行い、LMNA変異心筋細胞におけるDNA損傷の蓄積を軽減する化合物の探索を行った。まず、スクリーニングのためにLMNA変異iPSCMの分化誘導を持続的に行い、十分なストックを継続的に作成した。次に、頑健性の高いスクリーニング系を構築するため、心筋細胞の播種密度、投薬プロトコル、抗体による染色条件、染色像の撮影および解析アルゴリズムをそれぞれ設計・修正し、再現性高くシグナルを検出できるシステムを構築した。このスクリーニング系を用いて、300の既存薬からなるライブラリー、175のDNA損傷応答・修復に関与する化合物のライブラリーを投与する実験を行った。再現性担保のため同一ライブラリーを用いる実験を3回繰り返して行い、ヒット化合物の探索を行った。一次スクリーニングによって、iPSCMにおけるγH2AX fociの数を軽減させる化合物として、8個の候補化が得られた。続いて、これらの候補用いて細胞毒性、効果の濃度依存性の評価を行って絞り込んだところ、既存薬であるビタミンD2(VD2)がヒットとして抽出された。RNAシークエンス解析によって遺伝子発現変動を評価したところ、ラミン変異iPSCMではDNA損傷修復に関わる遺伝子群の一部の発現が低下していること、VD2投与によってその発現がレスキューされることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、創薬スクリーニングを実現するために細胞を用いたスクリーニング系を構築することを当面の目標としていたが、年度途中に概ねその完成を得たため、実際にライブラリーを用いた化合物スクリーニング実験を行うことができた。さらにスクリーニングの結果、毒性低くかつ効果に再現性のあるヒットを1つ同定することができ、具体的かつ定量的な成果を得ることができている。これらの達成は当初想定していた通りであり、現在までのところは順調であると言える。
(スクリーニングの継続)ライブラリーを変更して実験を行い、他にLMNA変異心筋細胞ののDNA損傷を軽減しうるシーズ化合物の同定を試みる。(同定した化合物の機能評価)すでに同定されたVD2の機能的なin vivoの効果を検証するために、心不全モデルマウスに投与する実験を実施する。(メカニズム解析)同定されたVD2が有効である理由を明らかにするため、VD2の受容体であるVDRのChIP(クロマチン免疫沈降)シークエンス、変異および野生型iPS心筋細胞におけるVDRの発現、局在の評価を行う。
投薬実験後の細胞の遺伝子発現解析のための実験を予定していたが、期間内に想定していた実験試薬が期間内に納入されず実施できなかったため、残額が発生した。次年度、追加サンプルの解析分と合わせた試薬の購入に使用し、使用予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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https://cardiovasc.m.u-tokyo.ac.jp/study/ips/about