ヒトiPS細胞由来心筋細胞の心臓への移植方法として,冠動脈内投与法および直接注射法の有効性および安全性を比較するための実験を行った。 まず合計6頭のカニクイザルに,細胞数や細胞塊のサイズなどの条件を変えて冠動脈内投与法による細胞移植を行った。1ヵ月後に心臓を摘出し組織検査を行ったところ,大きいサイズの細胞塊を投与した動物において,ホストの心筋内の細動脈周囲にグラフトの生着を認めたものの,同時に心筋梗塞の形成も認められた。多くの細胞数を投与した動物では,移植後に大きな心筋梗塞が形成され,心機能低下が認められた。また他の1頭は細胞注入中に死亡した。以上より,iPS細胞由来心筋細胞の移植方法として冠動脈内投与法は非効率的なアプローチであると考えられた。 次に合計10頭のカニクイザルに対して直接注射法による心筋細胞移植実験を行った。移植の2週間前に急性心筋梗塞を作製したカニクイザルに,iPS細胞由来心筋細胞または生理食塩水を移植し,心機能の変化や不整脈の発現を観察し,移植3か月後に組織検査を行った。心筋細胞移植群では,3か月後にもグラフトの生着が確認され,生理食塩水移植群と比較し長期的に心機能の改善効果が認められた。また従来の報告と比較して移植後に発生する心室性不整脈の副作用が格段に少ないことが明らかとなった。この結果から,iPS細胞由来心筋細胞の移植法として直接注射法は有効かつ安全な方法であることが示された。 以上の実験結果は,iPS細胞由来心筋細胞移植における重要な知見であり,心筋再生医療のヒトへの臨床応用の実現化を大きく加速するものと考えられた。
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