冠動脈結紮による左室収縮能が低下した心不全モデルラットに対して外科的腎神経切断による腎除神経を施行し研究に用いた。心不全ラットでは正常ラットに比較して、(1)心重量 および左室拡張末期圧が上昇し、左室±dP/dtが低下していた。(2)腎組織のノルエピネフリン含有量が増加していた。(3)安静時の全腎交感神経活動およ び求心性腎神経活動が亢進していた。(4)腎近位尿細管におけるSGLT2の発現が亢進しており、SGLT2阻害薬ダパグリフロジン静脈内投与に対する反応(尿量、 ナトリウム排泄量、グルコース排泄量)も亢進していた。(5)腎除神経により心不全群のSGLT2発現レベルおよびダパグリフロジンに対する反応は正常化した。ヒト胎児由来腎臓培養細胞を用いたIn vitro実験において、ノルエピネフリン刺激により細胞内から細胞膜へのSGLT2輸送が促進された。これらの結果から、SGLT2 と腎神経は双方向性の連関により体液調節に寄与しており、その機能破綻が心不全における体液貯留に結び付いていると考えられた。 引き続き、最終年度に左室収縮能が保たれた心不全を呈する肥満糖尿病モデルであるOLETFラットおよび対照のLETOラットを使用して研究を継続した。OLETFラットではLETOラットに比較して、(1)有意に体重が増加するとともに、収縮期血圧が上昇していた。(2)安静時の全交感神経活動および求心性腎神経活動が亢進していた。 (3)外科的腎神経切断による腎除神経により収縮期血圧が低下した。本研究実績は交感神経活性化を背景にもつ病態に対する、SGLT2阻害薬や腎デナベーションなどの病態改善効果を示すものであり、実臨床における自律神経修飾治療による介入への発展・応用基盤となる点において意義がある。
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