研究課題/領域番号 |
21K16099
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
木村 悠 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (80895003)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ナトリウム利尿ペプチド / 熱産生 / インスリン抵抗性 / 心臓-脂肪組織連関 / NAFLD / 心臓エネルギー代謝 / 心不全 |
研究実績の概要 |
抗心不全ホルモンとして知られるナトリウム利尿ペプチド(Natriuretic Peptide: NP)の新たな役割として、熱産生作用とインスリン抵抗性改善効果に注目し研究を行っている。末梢循環不全による組織低温環境やインスリン抵抗性をきたす重症心不全の病態に対してNPがこれまで知られていなかった有益作用をもたらしている可能性がある。 本年度は、NPを介した心臓-脂肪連関に着目して検討を行った。C57/BL6マウスを2群に分け、13週間、通常食または高脂肪食の負荷を行った。結果、インスリン抵抗性が有意に惹起されることを確認した。続いて、A型ナトリウム利尿ペプチド(A-type Natriuretic Peptide: ANP)を3週間持続投与する手法を用いて、そののちの熱産生作用とインスリン抵抗性改善効果の有無を検討した結果、寒冷刺激試験において体温は有意に保持され、インスリン抵抗性は有意に改善された。そのメカニズムを詳細に検討したところ、ANP投与群において褐色脂肪組織と皮下白色脂肪組織におけるUncoupling Protein 1(UCP1)発現が上昇し、皮下白色脂肪組織で褐色化(browning)を起こしていることが、免疫組織学的検討とmRNA発現解析で明らかになった。興味深いことに、皮下白色脂肪と内臓白色脂肪でNPに対する反応性が異なることも示され、組織炎症の改善効果があることも分かった。さらには、ANP投与によって脂肪肝(Non Alcoholic Fatty Liver: NAFLD)が改善することを組織定量評価で証明した。これらの発見は既報がなく、学会発表を行うとともに原著論文として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績欄に示したように、研究課題として挙げた「熱産生作用」について、我々は既にin vitro実験モデルで報告しているが、今年度のin vivoの検討において、それを裏付ける結果を示すことができた。また、「インスリン抵抗性改善効果」について、組織学的検討ならびにmRNA発現解析を用いた検討で証明し、これらの成果につき学会発表・論文発表を行った。基礎研究のみならず、臨床研究も進めている。甲状腺機能と心疾患について、当院独自のデータベースを用いた研究を行い、発表した。よって、現在まで進捗状況はおおむね順調であると判断している。 一方で、それらの成果を経て新たな課題が抽出された。次年度はその課題を解明するよう引き続き研究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究によって、以下の点が課題として抽出された。 1 NPの効果が皮下白色脂肪と内臓脂肪で異なるメカニズム 2 NAFLD改善のメカニズム 3 NPを介した心臓-脂肪連関(心臓組織に着目) 特に3につき、より一層検討を行う。具体的には、NPが心臓自体のインスリン抵抗性に対してどのように作用しているのか、電子顕微鏡でのミトコンドリア形態学的変化の検証も含めて検証する。他にも、NPを中心としたエネルギー代謝につき研究を継続する。熱産生作用についての研究を行ううえで、体温調整と甲状腺についての検討も行っており、甲状腺ホルモンとその代謝産物による体温調整機能について、NPとの関連性も踏まえて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に行った実験諸費用が想定より抑えられたこと、学会がweb参加になったため学会関連費用が抑えられ、などのため、次年度使用が生じた。
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