ASCL1は肺神経内分泌細胞分化のマスター転写因子であり、肺小細胞癌や肺腺癌の一部で発現している。申請者はASCL1が腫瘍形成を促進することや、ASCL1を発現する肺腺癌のサブグループでは腫瘍免疫応答が乏しいことを発見したが、そのメカニズムについては不明な点が残されている。 本研究では、まず、ASCL1陽性肺小細胞がんまたは線がん細胞株において、ASCL1により制御される遺伝子やmicroRNAの全ゲノムレベルでの発現解析を行った。その結果、ASCL1はmiR124-3pやmiR455といった特定のmiRNAの発現を正または負に制御していることを見出した。また、これらmiRNAがエンハンサーとして機能していることを見出した。次に、肺癌の病態形成におけるASCL1の役割を解明するために、これらmiRNAが発現を制御する遺伝子、とくにRNA結合蛋白の機能的役割の関係について着目した。肺腫瘍形成や腫瘍免疫応答との関連性を調べることを目的として、肺癌細胞株にmiRNA mimicあるいはsiRNAのトランスフェクションを行い、トランスクリプトーム解析を行った。その結果、肺癌細胞株VMRCにおいて、ASCL1はmiR124-3pの発現を介してRNA結合蛋白であるZFP36L1の発現を制御することを見出した。加えてASCL1陽性肺癌においてはmiR455-3pの発現は低下しており、miR455-3pがNFIBやNR2F1の発現を制御していることを発見した。 さらにヒト肺癌組織検体のTissue microarray 解析により、ヒトでも同様の結果が得られた。 以上の結果は複数の英語論文、あるいは学会発表の形で報告済、あるいは今後報告予定である。
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