研究課題/領域番号 |
21K16127
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
桂 廣亮 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (00894411)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 肺胞形成 / 筋線維芽細胞 / 細胞死 / 発生 / 代謝 |
研究実績の概要 |
本研究では、肺胞成熟期に時期限局的に出現する筋線維芽細胞の動体を分子レベルで明らかにすることを目的としている。 まず生後3週間程度で起こる肺胞成熟過程における組織構造の変化と筋線維芽細胞の時空間パターン解析を行った。肺胞の複雑な組織形態をより正確に理解するために、レポーターマウスとCUBIC法による組織透明化技術を組み合わせ、共焦点顕微鏡より得られた画像をコンピューター上で3次元再構築した。その結果、肺胞成熟が進むにつれて肺胞嚢の細分化が進み、中隔と呼ばれる仕切りの領域に筋線維芽細胞が特異的に局在していることが観察された。さらに筋線維芽細胞に沿ってエラスチンによる弾性繊維が形成され、出生後時間が経つにつれ太く発達していくことがわかった。 また肺胞の筋線維芽細胞は、生後2週間を過ぎたあたりから急速に消失していくが、この細胞死の実態は全くわかっていない。そこで、筋線維芽細胞が消失していく分子メカニズムを明らかにするために、Acta2-DsRedレポーターマウスより筋線維芽細胞を採取し、RNA-seqを用いた遺伝子発現解析を行った。解析の結果、肺胞形成期の筋線維芽細胞では細胞周期や細胞分裂など増殖に関わる遺伝子群が高く発現していたのに対し、消失期においてはアポトーシスや炎症応答関連の遺伝子が有意に発現していることがわかった。実際に筋線維芽細胞が消失していく時期では、DNAダメージの指標であるgH2AXやアポトーシスマーカーであるcleaved Caspase3が陽性の筋線維芽細胞が観察された。 興味深いことに、消失期の筋線維芽細胞において脂質代謝に関与する遺伝子群が多く含まれていた。現在は代謝変化による細胞死誘導の可能性に関して検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生後の肺胞形成における筋線維芽細胞の時空間的パターンの解析は、いくつかの最適化は必要だったものの、肺胞上皮細胞あるいは筋線維芽細胞のレポーターマウスを活用することで3次元観察ができるようになった。抗体染色も組み合わせての観察法も立ち上げ、筋線維芽細胞と特定のECMの局在パターンなども観察可能である。 またActa2-DsRedレポーターマウスを用いた筋線維芽細胞の回収に関して、同じくActa2を発現する平滑筋細胞とは表面抗原CD146を使用することである程度分離することができた。RNA-seqの結果、筋線維芽細胞の消失に関与する可能性がある遺伝子が抽出でき、公開された1細胞トランスクリプトーム解析結果と照らし合わせながら候補遺伝子を絞っている。当初の計画ではクロドロン酸リポソームを使ってマクロファージを枯渇させて筋線維芽細胞の生残を検討する予定だったが、クロドロン酸リポソーム投与では肺のマクロファージはほとんど無くならないことがわかった。しかし、RNA-seq解析より免疫系細胞との相互作用を示唆するような分子の発現も確認できているので、当該分子のノックアウトマウスを用いた解析にて免疫細胞との関わりを検討していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
生後の肺胞成熟過程において、組織構造の大きな変化は最初の1週間でおこる。発生中は1日ごとの変化が比較的大きいため、3次元再構築の実験に関しては特にこの期間は狭い間隔でより詳細な観察を行う必要がある。 また筋線維芽細胞消失における分子メカニズムも、RNA-seq解析より得られた候補遺伝子に関して検討を行っていく。現在、主に脂質代謝や酸化ストレス応答に関与する遺伝子群に着目しており、中心的な役割を担うと考えられる酵素の阻害剤や活性化剤、あるいは抗酸化剤などを生後のマウスに腹腔内投与し、筋線維芽細胞の生残期間に影響がないか調べる予定である。薬剤投与実験で期待できる結果が出た因子に関してはノックアウトマウスを作製してより詳細な分子メカニズムを追求していく。
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