本研究では、生後の肺胞成熟期に時期限局的に出現する筋線維芽細胞の動態を分子レベルで明らかにすることを目的としている。まず新たに導入したSMA-CreERマウスを用いて筋線維芽細胞の系譜追跡を行ったところ、生後2週間程度で陽性細胞の数が減り始め、生後20日程度でほぼ肺胞内から消失していた。このことから、肺胞の筋線維芽細胞は肺胞成熟につれて分化転換しているのではなく、細胞自体が組織から除去されていることがわかった。 また前年度までの研究で、肺胞成熟過程において筋線維芽細胞に沿ってエラスチンによる弾性繊維が形成されることが示されていた。筋線維芽細胞も弾性繊維も組織に収縮力を付与する因子であり、肺胞構造の構築において重要な役割を担っている。しかしながら、類似の機能を持つこれらの因子が互いにどう影響しあっているかはよくわかっていない。そこで、弾性繊維形成に必須の役割を持つFibulin5のノックアウト(KO)マウスを新たに作製し、生後の肺胞成熟化における筋線維芽細胞の動態を詳細に観察した。その結果、生後12日程度までは野生型と同様に肺胞内に筋線維芽細胞が豊富に存在しており、中隔形成にも大きな違いは見られなかった。しかしながら、生後14日以降は筋線維芽細胞が消失し始め、野生型では弾性繊維により中隔構造が保たれている一方で、KOマウスでは一度形成された中隔が壊され肺気腫様の表現型を呈した。興味深いことに、野生型マウスの肺胞で筋線維芽細胞が全く観察されない生後20日目以降においても、KOマウスの肺胞では一部の筋線維芽細胞が生残していた。以上の解析から、筋線維芽細胞の生存には肺胞組織の弾性力や機械的刺激が関与している可能性が示唆された。今後は筋線維芽細胞特異的に発現しているインテグリン分子に着目して、細胞外環境と細胞運命制御に関して解析を行なっていく。
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