研究課題/領域番号 |
21K16139
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
井上 裕介 浜松医科大学, 医学部, 助教 (10795470)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 小細胞肺がん / 運命制御転写因子 / 相互排他性 / リプログラミング / 個別化治療 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
小細胞肺がんでは運命制御転写因子(ASCL1、NEUROD1、POU2F3、YAP1、ATOH1)が相互排他的に発現している可能性が示されている。我々は、この相互排他性の背景に、腫瘍抑制性に働く転写因子発現の組み合わせが存在することにより選択や淘汰が生じている可能性を想定しており、このメカニズムを解明することによって新規の治療標的を特定することができると仮説を立てた。本研究では、(I) 小細胞肺がんにおける運命制御転写因子発現の相互排他性をタンパク質レベルで評価し、その臨床的な意義を多施設より集積した小細胞肺がんの臨床検体を用いて明らかにする。また、(II) 運命制御転写因子が相互におよぼす影響と腫瘍抑制性に働く共発現の組み合わせ、およびそのメカニズムを明らかにする。さらに、(III) 臨床検体へのアクセスが困難な小細胞肺がんの生きたバイオバンクとしてオルガノイドライブラリの構築を行い、臨床に直結するex vivoでの実験系を確立し、研究IIで同定された治療標的経路を念頭にHigh-throughput drug screening解析を行うことで、運命制御転写因子発現プロファイルに基づいた新規の治療標的・治療薬を同定することを目的とする。 研究I:我々は、多施設より149例の小細胞肺がん切除検体を集積し、タンパク質レベルでの各運命制御転写因子の相互排他的な発現を確認した。 研究II:5個の運命制御転写因子の全ての組み合わせの共発現誘導細胞株モデルを作成し、ASCL1+NEUROD1の組み合わせが最も強くアポトーシスを誘導することを見出した。網羅的遺伝子発現解析により、ASCL1+NEUROD1共発現によって細胞株固有の運命制御転写因子の発現が抑制され、かつ細胞形質の強いリプログラミングが生じることを明らかにした。 研究III:患者由来オルガノイドの樹立に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、小細胞肺がんの臨床検体を用いて、運命制御転写因子がタンパク質レベルで高度に相互排他的に発現していることを確認した。また、小細胞肺がんにおいて最も発現する頻度が高い二つの運命制御転写因子であるASCL1+NEUROD1の組み合わせで、細胞形質の強いリプログラミングを生じ、細胞死を誘導することを明らかにした。これらは我々の仮説に矛盾しない結果であり、おおむね順調に本研究が進行していると考えられる。また、気管支鏡による生検検体を利用した患者由来小細胞肺がんオルガノイドの樹立にも成功しており、今後はこれを用いた研究の推進が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
小細胞肺がんの細胞株に細胞死を最も強く誘導するASCL1+NEUROD1の共発現に注目し、今後の研究を推進する。これは、ASCL1とNEUROD1の発現が小細胞肺がんの大半を占めることからも合理的であると考える。この組み合わせでの細胞死のメカニズムと細胞形質リプログラミングのメカニズムを明らかにするべく、ATAC-seq解析やChIP-seq解析を行う予定である。これにより、ゲノムレベルでのオープンクロマチンの変化と、ASCL1やNEUROD1と各標的遺伝子との関係がASCL1+NEUROD1共発現モデルでどのように変化するのかを明らかにする。また、クロマチンの開閉状態に変化が確認されれば、責任ヒストン修飾因子を同定し、ASCL1+NEUROD1共発現による細胞形質リプログラミングのメカニズムを明らかにする予定である。最後に、上記で同定された細胞死・細胞形質リプログラミングのメカニズムに作用点を有する治療薬スクリーニングを患者由来オルガノイドライブラリを用いて行い、小細胞肺がんのサブタイプ特異的な新規の治療薬を同定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
オンライン学会参加のため旅費が想定よりも少額であったため次年度使用額が生じた。また、次年度にはATAC-seq、ChIP-seq、High-throuput drug screeningなど、高額な解析を複数予定しているため交付決定額を全て使用する予定である。
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