研究課題/領域番号 |
21K16154
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
伊藤 崇 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 訪問研究員 (20823561)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 気管支喘息 |
研究実績の概要 |
1年目の本期間には【研究計画1】 アレルギー性気道炎症マウスにおける授乳期プロピオン酸の寄与の検討を一部変更し行った。本計画ではチリダニ(House Dust Mite,HDM)の気管内投与によるアレルギー性気道炎症モデルマウスを用いて、授乳期に腸内プロピオン酸に曝露することで後年のアレルギー性気道炎症が抑制されるかどうかを検討した。この目的のために、プロピオン酸を含む飲料水に自由にアクセスできる母親の母乳を通して、授乳期にプロピオン酸を摂取した。離乳後プロピオン酸投与を中止し、HDMを気管内投与後における気管支肺胞洗浄液の好酸球、好中球、CD4+ T細胞の割合を測定した。プロピオン酸を与えたマウスは、他の群のマウスと比較して気道の好酸球およびCD4+ T細胞の割合が少なく、好酸球の肺への浸潤もプロピオン酸投与マウスで有意に減少した。さらに、これらの好酸球数の違いが性差によるものかどうかを調べるため、雄マウスでも同様の実験を行ったところ、プロピオン酸投与により雄マウスでも好酸球数が減少した。また肺組織の解析では、プロピオン酸投与群では他のマウス群に比べ、気管支周辺への好酸球や好中球の浸潤が減少していた。これらの結果から、授乳期におけるプロピオン酸の投与は、その後のマウスのアレルギー性気道炎症を減弱させることが示唆された。さらに、HDMによる縦隔リンパ節および気管支肺胞洗浄液内細胞におけるTh2サイトカインIL-5およびIL-13産生は、プロピオン酸群で有意に減少し、Th17サイトカインIL-17AおよびTh1サイトカインIFN-gammaでは同等であることが明らかとなった。これらの結果は、授乳期におけるプロピオン酸の投与がHDMによるTh2応答の発達を抑制し、後年のアレルギー表現型を抑制することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の本期間には【研究計画1】 アレルギー性気道炎症マウスにおける授乳期プロピオン酸の寄与の検討を内容を一部変更しおこなった。本期間には、喘息モデルマウスやフローサイトメトリー、ELISA、組織学的解析を組み合わせた実験計画を綿密に遂行することにより、授乳期におけるプロピオン酸の投与がHDMによるTh2応答の発達を抑制し、性差によらず後年のアレルギー表現型を抑制することを明らかにした。以上より概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2年目以降には【研究計画2】 短鎖脂肪酸受容体ノックアウトマウスを用いた授乳期プロピオン酸がアレルギー性気道炎症に寄与する制御機構の解明を行う。プロピオン酸を含まれる短鎖脂肪酸は各種免疫細胞に対し、G蛋白共益型受容体の一種であるGPR41、GPR43等を介し、生理活性を来たすことが明らかになっている。そこで今後はこれまでの研究計画によって明らかとなった授乳期プロピオン酸がアレルギー性気道炎症に寄与する制御機構を解明するためにGPR41およびGPR43欠損マウスを用いたアレルギー性気道炎症の解析を行う。野生型およびGPR41、GPR43欠損妊娠マウスの飲水中にプロピオン酸を投与する群および無投与群を置く。その後、成長した仔マウスに対しHDM誘導性アレルギー性気道炎症を惹起し、各群におけるアレルギー性気道炎症、粘液産生増多、気道過敏性を比較する。この実験によりプロピオン酸がどのような受容体を介し、アレルギー性気道炎症に寄与するか明らかにできる。
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