研究課題
MAFBは、腎臓の糸球体上皮細胞特異的転写因子である。これまでヒトのMAFB変異による疾患として、多中心性手根足根骨融解症候群(MCTO)とデュアン眼球後退症候群(Duane症候群)が知られている。MAFB変異をもつこの2疾患は腎の糸球体上皮細胞障害をきたし、慢性腎臓病の一種である巣状糸球体硬化症をきたす。腎の病型は同じだが、2疾患のMAFB変異部位は異なっており、ヒト腎生検でのMAFB染色パターンに加えて腎以外の表現型も大きく異なる。本研究では、ゲノム編集技術を用いて2疾患と同じ変異を持つ疾患モデルマウスを解析して、2疾患のMAFB変異がいかに巣状糸球体硬化症をきたすかを明らかにすることを明らかにすることを目的とした。ゲノム編集(CRISPR-Cas9システム)で、ヒトMCTO患者と同じ変異 (p.Pro59LeuMAFB変異) をもつ疾患モデルマウス(MCTOマウス)、ヒトDuane症候群患者と同じ変異(p.Leu239ProMAFB 変異)をもつマウス(Duaneマウス)を作製した。MCTOマウスは、若齢期からアルブミン尿を呈して腎に巣状糸球体硬化症を呈し、ヒト疾患と同様のタンパク尿や糸球体上皮細胞障害の表現型を示すことを確認した。MCTOマウスの腎臓の単離糸球体のRNA-seqで、IGF-1を介したPI3K-Aktシグナル亢進を確認し、抑制薬であるメシル酸イマチニブの投与でMCTOマウスのアルブミン尿減少・糸球体上皮細胞障害改善を確認した。MCTOベクターをHEK293t細胞へトランスフェクションし、Aktシグナル亢進とIgf1の上昇を認め、メシル酸イマチニブ追加でシグナル亢進の抑制も確認した。MAFB-IGF1-PI3K/AKTシグナル経路の活性化がMCTO関連腎症に寄与していることを示唆し、この経路への介入がMCTO関連腎症の治療法になる可能性を示した。
2: おおむね順調に進展している
ゲノム編集(CRISPR-Cas9システム)を用いて、ヒトMCTO患者と同じ変異 (p.Pro59LeuMAFB変異) をもつ疾患モデルマウス(MCTOマウス)、ヒトDuane症候群患者と同じ変異(p.Leu239ProMAFB 変異)をもつマウス(Duaneマウス)を作製した。MCTOマウスは、若齢期からアルブミン尿を呈して腎に巣状糸球体硬化症を呈すること、ヒト疾患と同様のタンパク尿や糸球体上皮細胞障害の表現型を示すことを確認した。研究内容が、第64回・第65回・第67回日本腎臓学会学術総会で一般優秀演題賞を受賞、国際学会である第60回欧州腎臓学・透析移植学会議でも採択された。研究内容を含む総説が査読付き国際学術雑誌でAcceptされた。研究内容について査読付き国際学術雑誌に投稿中であり、順調に進展しているため。
国際学術雑誌投稿に対するリバイス実験を行い、Acceptを目指す。Akt阻害薬投与での疾患モデルマウスに対する効果を確認する。
コロナ禍の影響で、研究用の試薬・抗体などの消耗品の生産の遅れと品不足があったこと、さらにコンテナ便が混んでいるため、輸入に時間がかかり研究用年度跨ぎになった。また、予定していた疾患モデルマウスの外注での解析費用が、コロナ禍の影響で解析用試薬の輸入遅延で時間がかかり研究用年度跨ぎになったことが主な理由である。次年度で残額分の研究費を使用して、予定の研究用試薬・抗体購入や、論文投稿費用にあてる予定である。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Internal Medicine
巻: 62 ページ: 11~19
10.2169/internalmedicine.9336-22