我々は、ATP可視化マウスと二光子顕微鏡を用いた独自の生体腎ATP可視化技術を用いて、急性腎障害から慢性腎臓病に至る病態メカニズムの解明に取り組んできました。本研究では、第一に急性腎障害時の糸球体におけるATP動態と慢性期の形態変化の関係を明らかにすること、第二に腎全領域のそれぞれの機能部位におけるエネルギー代謝機構を明らかにすることを目標としました。2021年度は、虚血性急性腎障害における糸球体のATPイメージングに成功し、糸球体内の各細胞群で、ATP動態が異なることや虚血時間が長いほど糸球体のポドサイトのATPの回復率が低下することを見出しました。また、ATP可視化マウスを用いた腎スライス培養系を樹立することで、全領域でのATPの観察が可能になりました。さらにATP合成阻害剤投与によるATP変化を詳細に解析することにより、各ネフロンセグメントにおける解糖や酸化的リン酸化によるATP産生のそれぞれの依存度を明らかにしました。2022年度は、急性期のATP回復度と慢性期のポドサイトのミトコンドリア円形度や足突起幅が逆相関することを見出しました。急性期のATP変化が慢性期のポドサイト障害形成や慢性期の腎機能低下の進行に強く関わることが示され、急性期に細胞内ATPを保つことが、腎予後を改善するために重要であることを示唆しました。さらに腎スライス培養系下のATP可視化技術を用いて、薬剤性腎障害において、ネフロンセグメントによってATP挙動が全く異なることを見出し、薬理作用が細胞特異的であることを示しました。今後、今後腎保護薬や腎障害物質のスクリーニング法の確立に資すると期待できます。
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