研究課題
慢性腎臓病の発症・進展に関わる新規機序の一つとして,腎臓におけるエネルギー代謝障害,特に脂肪酸酸化障害が重要な役割を担っていることが明らかになってきたが,糖尿病性腎臓病(DKD)における腎エネルギー代謝の意義を検討した報告は少ない.本研究は申請者が開発した抵抗型マウス(C57BL/6-Akita-ReninTG)とDKD増悪型マウス(129/Sv-Akita-ReninTG)を用いて,DKDの発症・進展において腎エネルギー代謝障害,特にFAO障害がどのように関わっているかを解明することを目的に行われた.DKD増悪型マウスの腎臓では,ミトコンドリアにおけるFAO機能を反映する偶数鎖アシルカルニチンの減少が見られるとともに,脂肪酸酸化関連遺伝子のmRNA発現が有意に変化していた.これらの変化はDKD増悪型マウスでのみ見られ, DKD抵抗型マウスでは認められなかった.本研究結果は,他のCKDの病態生理と同様に,FAO障害に起因する腎エネルギー代謝の変化がDKDの進展に関連していることを示唆している.現在,DKD増悪型マウスに対して,従来の治療法としてのRAS阻害薬,そして新規治療薬の候補としてPPAR-alpa作動薬,SGLT2阻害薬,TNF-alpha阻害薬などを投与する実験を開始している.
3: やや遅れている
本研究は,DKD増悪型マウスの腎臓における腎エネルギー代謝障害の有無の確認,DKD増悪型マウスを用いた腎エネルギー代謝に着目した新規治療法の探索,ヒト腎組織を用いた臨床研究の3つから構成されている.動物実験に関しては概ね順調に進捗しているが,臨床研究に関してはヒト腎組織検体の収集に時間を要している.
今後,DKD増悪型マウスを用いた腎エネルギー代謝に着目した新規治療法の探索を中心に研究を進めていく.またヒト腎組織検体の収集も継続して行っていく.
当初,尿アルブミン測定を外注する予定であったが,自施設にてELISAを用いた測定系を確立し非常に安価に測定を行えるようになった.また,共同研究先の配慮により,メタボローム解析の費用を非常に安価に抑えることも可能であった.これらの事実により次年度への繰越金が生じた.次年度は余裕の出た助成金にて,mRNAシークエンスやテレメトリーシステムを用いた観血的血圧測定などを行い,より病態解明に迫る予定である.
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)
Kidney International
巻: 101 ページ: 912-928
10.1016/j.kint.2022.01.031.
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