腎エリスロポエチン産生細胞(REP細胞)由来の細胞株であるReplic細胞は、障害腎においてREP細胞が形質転換した筋線維芽細胞の形質を有しており、エリスロポエチン(EPO)産生能を喪失している。Replic細胞のEPO産生能喪失の原因として細胞自律的なTGFβシグナルの活性化およびEPOと低酸素誘導因子HIF2αの遺伝子領域のDNAメチル化による遺伝子発現抑制が明らかになっている。 DNAメチル化に対し、DNAメチル化酵素阻害薬や、TGFβ阻害薬であるSB431542の投与では、形質転換の抑制は限定的であった。また、ウイルスルスベクターを用いたHIF2αの恒常的過剰発現を試みたが、細胞へのウイルス感染は確認されず、プラスミドを用いたHIF2αの一過性過剰発現においても、現在のところHIF2α恒常的過剰発現の細胞は得られていない。さらに、REP細胞形質転換の考えうるメカニズムに対し、RASシグナル阻害剤やヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を試みたが、HIF2αの遺伝子発現の亢進は認められたものの、EPO産生誘導は認められなかった。以上から、Replic細胞の形質の可塑性は一部認められるものの限定的であり、現時点では不可逆的に形質転換したREP細胞のモデルであることを前提に検討を進めた。REP細胞のマーカーであるCD73に関して、セルソーティングでCD73発現が高い群と低い群に分取したところ、発現が高い群で線維化マーカーの発現が低いことが明らかになったため、CD73は線維化の重症度と逆相関を示す可能性が示唆された。さらに、Replic細胞において、SB431542投与や間葉系細胞用培地での培養により、種々の線維化マーカーの中でもCalponin 1が鋭敏な低下を示すことが明らかとなり、この分子が臓器線維化の中でも腎線維化において有用なマーカーである可能性が示唆された。
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