研究課題/領域番号 |
21K16180
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 信彦 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80572552)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 近位尿細管 / 糖新生 / 副甲状腺ホルモン / インスリン / SGLT2阻害薬 |
研究実績の概要 |
慢性腎臓病の主要な病因の一つである糖尿病性腎臓病は、末期腎不全に至る重要な疾患であり、その病態生理に腎糖新生の関与が示唆されている。糖新生は全身のグルコースホメオスタシスに必須の機構であり、正常ではその役割の大部分を肝糖新生が占めている。一方、近位尿細管糖新生の全糖新生に対する寄与は25%程度であるが、長期絶食時の肝糖新生に匹敵する可能性が指摘されている。さらに、近年、インスリン分泌調節作用に留まらない新しい機序を持った糖尿病治療薬の出現により、血糖だけではなく生体エネルギー代謝の調節という広い視点で糖尿病の病態と治療が見直される中で、SGLT2阻害薬の標的でもあり、肝臓に次ぐ糖産生臓器でもあるこの近位尿細管が注目されており、本研究は、未解明の部分も多い近位尿細管糖新生のホルモン調節機構や新規糖尿病治療薬の投与に伴う輸送体の生理機能の変化を、肝糖新生と比較しながら解析するものである。前研究の延長として、PTHR1/PKCシグナル伝達を介して腎糖新生を促進させる副甲状腺ホルモンが、全身糖新生の首座である肝糖新生に及ぼす影響を、新たに初代培養肝細胞を用いて解析した。既知のとおりcAMPによる肝糖新生の促進作用は培養肝細胞の系でも観察される一方、近位尿細管で観察されたPEPCK、G6PC、FOXO1の発現上昇とインスリンによるそれらの抑制は培養肝細胞では見られず、甲状腺ホルモンの糖新生促進作用が近位尿細管特異的であることが確認された。また、SGLT2阻害薬がPT酸塩基平衡に及ぼす影響の解析として、SGLT2阻害剤(カナグリフロジン)投与ラットでは、血糖を含めた一般生化学検査では有意な変化を認めなかったが、アンギオテンシンIIによる尿蛋白増加を抑制するとともに、単離近位尿細管におけるナトリウム重炭酸共輸送体(NBCe1)の活性化を抑制した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、新型コロナウイルス感染症の蔓延による大学の活動制限および院内感染対策業務の逼迫のために、予定していた実験の一部を実施していない。しかしながらこの状況においても、副甲状腺ホルモンが近位尿細管糖新生に及ぼす影響の延長線として、培養肝細胞を用いた肝糖新生とのホルモン制御機構の比較や、SGLT2阻害薬がPT酸塩基平衡に及ぼす影響の解析など、今後の本研究の発展において重要なデータを得ている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、SGLT2が近位尿細管酸塩基平衡に及ぼす影響の解析を発展させ、引き続き灌流装置付き倒立蛍光顕微鏡とpH感受性蛍光色素(BCECF-AM)を用いた細胞内pH測定による輸送体(NHE3)の機能解析および糖新生機能解析を実施するとともに、Wistarラットの単離PTを用いてグルカゴン作用の濃度依存性、qPCRによる糖新生酵素mRNA定量、キットを用いたグルコース産生能、PEPCK酵素活性、G6Pase濃度の測定を行い、グルカゴンが正常なPT糖新生に及ぼす影響を解析する。また、インスリン抵抗性や2型糖尿病のない正常ヒト単離PTでも同様の解析を行い、種差の可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行により、通常よりもエフォートを病院感染対策や職員の感染対応に割かれ、実験計画に遅れが生じた。令和4年度において、令和3年度に予定していた実験を含め,可能な限り進捗させる予定である。
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