腎近位尿細管の糖新生におけるグルカゴンの役割は、受容体の存在から病態生理学的意義に至るまで不明な点が多い。まず、単離ラット近位尿細管を用いたex vivo実験系において、グルカゴンが糖新生酵素mRNAに及ぼす影響を測定した。その結果、PEPCK(ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ)およびG6Pase(グルコース6-ホスファターゼ)のmRNA発現量は、対照系と比較して2から3倍増加した。近位尿細管におけるin vivoのグルカゴン作用には、肝臓で産生されるcAMP関与するという説と対照的に、単離された尿細管を用いたex vivoの系では直接的な作用が観察された。次に、病態生理学的意義の観点から、SGLT2阻害薬投与による反応性グルカゴン上昇と腎保護作用に注目した。SGLT2阻害薬の作用を検討したところ、直接作用する受容体の存在は不明であるが、近位尿細管に対する生理作用が観察された。そして、SGLT2阻害薬の作用を検討する中で、グルカゴンと生理作用を同じくするアルドステロンが、ミネラルコルチコイド受容体(MR)を介して近位尿細管Na輸送を亢進し、SGLT2阻害薬によって抑制されることを見出した。片側腎摘出、高塩分食、浸透圧ポンプによるアルドステロン持続投与で作成した糖尿病性腎疾患ラットでは、SGLT2阻害薬がMRブロッカーでみられる高カリウム血症を抑制し、この効果には近位尿細管カリウム輸送体TWIK1とTASK2が関与していることを示し、国際学会で報告した。また、SGLT2阻害薬が、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を介したOXSR1(oxidative stress responsive kinase 1)のリン酸化を阻害することで、近位尿細管のNa輸送調節の中心的役割を阻害している可能性を解析し、論文化を進めている。
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