脂質代謝酵素とその代謝物は炎症や線維化に影響を与えるが、慢性腎臓病(CKD)におけるその役割は解明されていない。CKDにおける脂質代謝酵素の役割を明らかにするために、古典的CKDモデルである5/6腎摘を施行したマウスの腎臓における主要な脂質代謝酵素のmRNA量を測定した。5/6腎摘群では、コントロール群と比較して、Alox15のmRNA とタンパク質レベルでの発現がともに増加していた。また、in situ ハイブリダイゼーションでは、5/6 腎摘群の腎尿細管においてAlox15の mRNA が増加していた。続いてCKDの病態におけるAlox15の役割を調べるために、Alox15ノックアウト(KO)マウスに5/6腎摘を行ったところ、野生型マウスに比べて良好な腎機能を示し、間質性線維化が抑制された。このようにAlox15 KOマウスがCKDに抵抗性を示す理由を検索するため、腎組織のターゲット・リピドミクスを施行したところ、Alox15 KOマウスのCKDモデルの腎臓では野生型のCKDモデルの腎臓よりも有意にエイコサノイドの1つであるプロスタグランジンD2(PGD2)の組織含有量が増加していた。腎線維化に対するPGD2の効果を検証するために、ラットの尿細管細胞由来であるNRK-52E細胞とヒトの近位尿細管細胞由来であるHK-2細胞にTGF-β1共存下でPGD2を投与したところ、両方の細胞種でI型コラーゲンとαSMAが用量依存的に抑制された。Alox15 KOマウスのCKDモデルの腎臓におけるPGD2の増加は、線維化を抑制し、CKD抵抗性のフェノタイプに繋がっている可能性が示唆された。本研究で我々はAlox15の阻害およびPGD2の投与は、CKDの新規治療となる可能性を示した。
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