多価不飽和脂肪酸とその代謝物は慢性炎症を主体とする病態形成に関わるが、近年脂質メディエーターを網羅的に解析することで単独で機能を持ち病態に関わる脂肪酸の特定が可能になった。本研究ではCKD腎臓における脂質メディエーターの全体像を明らかにし、病態形成に関わる脂肪酸を明らかにすることを目標とした。主要な脂肪酸代謝酵素の1つである12/15-リポキシゲナーゼ(ALOX15)の発現が5/6腎摘CKD群でmRNA発現増加が有意であった。CKDの病態におけるAlox15の役割を調べるために、Alox15ノックアウト(KO)マウスに5/6腎摘を行ったところ、野生型マウスに比べて良好な腎機能を示し、間質性線維化が抑制された。Alox15 KOマウスがCKDに抵抗性を示す理由を検索するため、腎臓のリピドミクスを施行したところ、Alox15 KOマウスのCKD腎臓では野生型のCKD腎臓より、有意にエイコサノイドの1つであるプロスタグランジンD2(PGD2)が増加していた。腎線維化に対するPGD2の効果を検証するために、ラットの尿細管細胞由来培養細胞にTGF-β1共存下でPGD2を投与したところ、両方の細胞種でI型コラーゲンとαSMAが抑制された。これらの結果から、Alox15 KOマウスのCKDモデルの腎臓におけるPGD2の増加は、線維化を抑制し、CKD抵抗性のフェノタイプに繋がっている可能性が示唆された。本研究で我々はAlox15の阻害およびPGD2の投与は、CKDの新規治療となる可能性を示し、報告を行った。
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