研究課題
本研究の目的は、脳内酸素代謝が尿毒素物質や透析内用シャントによってどのような影響を受けているのか、さらに脳内局所酸素飽和度(rSO2:regional oxygen saturation)の低下が認知機能にどのような影響を与えているかについて明らかにすることである。我々はこれまで、血液透析(HD)患者を含む慢性腎臓病(CKD)患者において、CKDが進行するほど脳内rSO2が有意に低値であることを報告し(PLoS One.2015、PLoS One.2018)、2021年には、HD患者の脳内rSO2の低下がMini-Mental State Examinationスコアで表現される認知機能障害と関連することを報告した(Nephron. 2021)。さらに、HD患者において、血清アルブミン値や透析歴、平均血圧、糖尿病歴、ヘモグロビン値等、複数の因子が関与することを明らかにしてきた(PLoS One.2020)。これらの脳内rSO2に関連する因子の中で、透析歴は様々な因子と独立して、脳内rSO2と負の相関を有することを明らかにしたが、透析歴はCKDに起因して起こりえる様々な因子を内在していると考えられる。このような背景から、現在CKD患者に特有な因子として尿毒素と透析用内シャントに着目して検討を継続中である。特に透析用内シャントの存在が脳内rSO2に与える影響として、透析用内シャントにおける経皮的血管形成術(PTA)時の頸動脈血流と脳内rSO2値の変化を計測したところ、頸動脈血流は低下していたが、脳内rSO2値は維持されるという結果であった。シャントの存在が脳血流量を変化させている可能性がある一方で、脳は他臓器と比較して影響を受けにくいことを示唆しているものと考えられ、今後は透析用内シャント作成前後で脳内酸素代謝がどのように変化するかについて、検討を加える予定である。
3: やや遅れている
COVID-19感染拡大、パンデミック状態の継続に伴い、臨床業務が多忙になっている状況であること、また脳内局所酸素飽和度の測定するシステム(INVOS 5100c oxygen saturation monitor)の故障もあり、そのセットアップのための時間を要したことから、やや遅れているとの評価としたが、現在症例登録を進めている最中である。
令和4年度、現在の症例登録をさらに進め、目標とする症例数の集積を行う予定である。また、目標症例の集積時点で、解析の開始を行う予定である。尿毒素および透析用内シャントと脳内酸素代謝との関連についての検討を行う予定である。
研究機器のセットアップに時間を要したため、若干の研究計画の遅れが生じ、測定のための消耗品費等を次年度へ繰り越した。繰り越した予算と当該年度必要分として請求した助成金を合わせ、測定のための消耗品(測定センサー等)の購入、備品の修繕費用が再度必要になった場合には、そのための費用として使用する予定である。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
The International Journal of Artificial Organs
巻: 44 ページ: 822-828
10.1177/03913988211020017.
日本透析医学会雑誌
巻: 54 ページ: 421-422
10.4009/jsdt.54.421