スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)は、広範囲のびらん を特徴とする、重篤な薬疹である。SJS/TENでは、表皮細胞がアポトーシスやネクロプトーシスというタイプの細胞死を起こす。このアポトーシス経路とネクロプトーシス経路は、インフラマゾーム経路と互いに関与し合う。インフラマゾーム経路は、IL-1βやIL-18を細胞外へ放出されることで周囲に炎症を起こす他、パイロトーシスという細胞死を引き起こす。本研究は、SJS/TENの病態にインフラマゾーム経路が関与するかを解明することを目指した。 昨年度、SJS/TENの病変部の表皮細胞で実際にパイロトーシスが起きていることを明らかにした。また、HaCaT細胞にP2X7受容体刺激とFPR1刺激を加えることで細胞死を誘導できる、重症薬疹モデル細胞の作製に成功した。このモデル細胞では、アポトーシス、ネクロプトーシス、パイロトーシスが混在していた。 本年度はこのモデル細胞を用いて、細胞死の各経路の相互作用について、各経路の阻害剤を用いて解析した。アポトーシス阻害剤やネクロプトーシス阻害剤、パイロトーシス阻害剤をそれぞれ添加すると、各種細胞死の割合の変化はあったが、細胞死の量自体に変化はなかった。このことから、細胞死の各経路は相互に作用しており、1経路が阻害されることで、その他の経路が活性化されていることが示唆される。しかし、各細胞死の経路に関与する、RIP1の阻害剤を添加したところ、モデル細胞において細胞死の量が優位に低下した。このことから、RIP1は重症薬疹における、各種細胞死の経路の主要調節因子として働いていることが明らかになった。 本研究で得られた成果により、重症薬疹の細胞死にはRIP1が重要な役割を担っており、RIP1阻害剤が、重症薬疹の新規治療薬として有用である可能性が期待される。
|