乳房外Paget病は皮膚に発生する稀な腺癌であり、その起源となる細胞や発癌に関わる遺伝的変化など、十分明らかになっていない。同じく腺癌である乳癌では、その遺伝子発現プロファイリングから治療法を選択することが既に日常診療で行われている。乳房外Paget病は時に進行期となり治療に難渋する症例も経験され、治療法確立のためにも腫瘍分子生物学的知見の集積が急務である。本研究では乳房外Paget病の遺伝子プロファイリングを明らかにすることで、乳房外Paget病の起源や発癌に関わるシグナル、さらに診断・治療に結び付くマーカーを探索した。 まず、Pilot studyとして当科で2016年4月1日から2017年3月31日までに切除した乳房外Paget病4症例を解析した。既存のホルマリン固定パラフィン包埋組織標本(FFPE)において、腫瘍部および近傍の正常皮膚から全RNA解析を行い、トランスクリプトーム解析を行った。このうち1例において、表皮細胞のデスモソームを構成するデスモプラキンをコードしているmRNAが、正常部に比べて腫瘍部で増加していた。この腫瘍部を抗デスモプラキン抗体で免疫蛍光染色したが、腫瘍細胞は染色されず、デスモプラキンは乳房外Paget病と関わりはなかった。そのほかの3例については正常部と腫瘍部で有意な差を検出できなかった。差が検出されなかった原因として、①FFPE標本におけるRNAが劣化していたこと、②乳房外Paget病は主に表皮内に広く少数の細胞が分布する腫瘍であるため、腫瘍部として用いた検体にも必ずしも腫瘍が十分含まれていなかったことが考えられた。
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