研究課題/領域番号 |
21K16227
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小亀 敏明 京都大学, 医学研究科, 特定講師 (00744111)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | iSALT / MALT / 皮膚局所免疫 / 三次リンパ濾胞 |
研究実績の概要 |
リンパ濾胞の過形成を特徴とする形質細胞増多症、木村病、primary cutaneous marginal zone lymphoma (PCMZL)に加え、悪性のみならず両性の皮膚腫瘍に伴う反応性リンパ濾胞においても、抗体産生に必須の因子とされるactivation-induced deaminase (AID)の発現が認められた。また、分化するB細胞としての活性化型B細胞(IRF4+CD20+)形質芽細胞(IRF4+CD38+)形質細胞(IRF4+CD138+)が、リンパ節と類似した局在を示した。一方、primary cutaneous follicular cell lymphoma (PCFCL)はリンパ濾胞を形成するにもかかわらずAIDは陰性であった。よって、リンパ濾胞様構造においてリンパ節と同様な免疫学的特徴がみられ、そのうえで、疾患的特徴がB細胞に表れると考えた。 また近年、Weisel NMら(Blood, 2020)によって、骨髄や血液ではなく、腸に局在するメモリーB細胞(CD45RB+/CD69+))が種々の臓器に多数局在することが示された。皮膚リンパ濾胞は解析されていなかったため、木村病の検体を同様にフローサイトメトリーを行ったところ、半数以上が腸型メモリー細胞であった。これより、iSALTと腸型Bリンパ球の関連が示されたため、腸型Bリンパ球の特徴とされるJ-chainやMZB1、IgAの発現を検索したところ、リンパ濾胞を伴う皮膚疾患でこれらの因子を発現するB細胞を確認した。よってこれらより腸型Bリンパ球と考えられる細胞が皮膚においても認められ、これらとリンパ濾胞の関係を見出した。 これらの研究結果より着想を得たiSALTのconceptを総説として発表した。(Kogame et al. Frontier Immunology, 2021)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
偽リンパ腫、形質細胞増多症、木村病、PCMZLに関してはscRNA sequence可能な凍結標本を準備済みであるがこれらはまだ試行されていない。本来、最初にこれらを使ってどのような細胞がiSALTが特徴的か解析するところから進める予定であったが、既にB細胞が腸型の特徴を有する可能性を見出したため、全体的なスクリーニングからの解析対象とする細胞の選別作業を省略しB細胞に焦点を当てた解析が今後進めることができるようになった。また病理標本だけなら、上記疾患群に加えて、PCFCL、反応性リンパ濾胞形成の付随する、脂漏性角化症や皮膚線維種など皮膚良性腫瘍、また同様の所見を伴う有棘細胞癌やメラノーマなどの悪性腫瘍の病理標本も他大学の協力を得て3症例以上ずつ収集完了した。 よってB細胞に注目しながら各疾患毎にまとめることで、iSALTの共通する特徴に加えて各疾患の病態の特徴を明らかにすることができると考える。
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今後の研究の推進方策 |
scRNA sequence可能な凍結標本を既に入手している、偽リンパ腫、形質細胞増多症、木村病、PCMZLの症例のうち、大量の標本を得ることができた木村病から解析を進める。scRNA sequenceでCD19+B細胞を中心にトランスクリプトーム解析を行う。腸型のB細胞に特徴的な遺伝子の発現パターンを認めたとき、フローサイトメトリーでB細胞にこれらが蛋白質として発現していることを確認する。多重免疫染色もしくはマスサイトメトリーで濾胞内での腸型のB細胞の位置情報を確認する。これらによって、iSALTに特徴的なB細胞のcharacterizationを行う。 次に、反応性病変と考えられる偽リンパ腫や形質細胞増多症、腫瘍性と考えられるPCMZLやPCFCLでB細胞の遺伝子プロファイルに違いがあるかscRNA sequenceで検討し、特に腸型のB細胞に注目して各疾患の特徴を検討する。またnanostring GeoMxを用いてリンパ濾胞のB細胞領域を中心に病理組織を解析し、濾胞を形成するB細胞の遺伝子発現に疾患毎の特徴があるか検討する。これらより、腸型のBリンパ球という観点からiSALTに共通する側面と、疾患間での差異を検討する。 B細胞以外の免疫細胞に関しては、木村病のサンプルを用いてCD45+細胞を対象にscRNA sequenceを行い、トランスクリプトーム解析を行う。これらを解析することで、B細胞以外の細胞に関しても将来的なiSALT解析のための基盤となる情報を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文執筆のため。
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