特発性肺炎症候群(IPS)は同種造血幹細胞移植後の致死的合併症であるが発症機序は明らかでない。免疫抑制剤等の治療は効果が乏しく、同種免疫反応以外の機序を標的とした予防法や治療法の確立が急務である。我々はIPS患者の一塩基多型を解析し、アンジオテンシノゲンの遺伝子多型とIPS発症の相関を世界で初めて見出した。レニン・アンジオテンシン系(RAS)がIPSを助長する機序として、移植前処置等により刺激された肺胞マクロファージでアンジオテンシンIIによる共刺激も加わってインフラマソームの活性化が起こり、ドナーリンパ球を過剰に活性化してIPS発症に至るのではないかという仮説を考え、その検証のためIPSマウスモデルを用いた本研究を実施した。簡便なブレオマイシン刺激によって肺胞マクロファージでアンジオテンシノゲンの発現が亢進している事、肝臓でのアンジオテンシノゲンKOマウスではブレオマイシン刺激後に肺胞マクロファージでアンジオテンシノゲンの発現がさらに亢進しており肺障害が増悪している事を確認した。この肺胞マクロファージでのアンジオテンシノゲンの発現誘導がアンジオテンシンIIによるフィードバックを受けていると考えたが、in vitroの肺胞マクロファージの実験でアンジオテンシンIIやアンジオテンシン受容体阻害薬によるアンジオテンシノゲンの発現変化は認めなかった。一方でアンジオテンシノゲンそのものの投与により肺胞マクロファージでアンジオテンシノゲンの発現が変化していた。従来RASは最終生理活性物質であるアンジオテンシンIIが細胞に作用していると考えられてきたが、肺胞マクロファージでのアンジオテンシノゲンの発現調節は基質のアンジオテンシノゲンそのものによって調節されている可能性が示唆された。アンジオテンシノゲン受容体は未だ同定されておらず、今後はその探索を進めていく。
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