多発性骨髄腫(以下骨髄腫)は形質細胞がんで、単クローン性免疫グロブリン(M 蛋白)の増加や、骨病変、腎障害、免疫不全を特徴とする極めて難治性の血液疾患である。骨髄染色体解析から、二倍体や転座、欠失・増幅の染色体異常は把握できるものの、骨髄腫の増悪に係わるゲノム異常や分子機構はよくわかっていない。近年、新規薬剤が一定の治療成績の向上を達成しているが、依然として治癒に至る例は少ない。初回の治療が奏功したように見えても短期間で再発する症例が多く、既存の薬剤では根治が極めて難しい。その最大の原因は、骨髄腫の悪性化および薬剤耐性と考えられている。近年、染色体1番のp12領域のゲノム異常が難治性骨髄腫に見られることが報告され、FAM46C遺伝子の骨髄腫の病状経過における重要性が示唆された。FAM46Cの欠失は、骨髄腫患者の予後に関わる重要なゲノム異常の1つとされているが、その作用機序は未だに明らかではない。研究代表者は骨髄腫患者において高頻度に欠失が見られるFAM46C遺伝子に着目し、本研究ではFAM46Cが骨髄腫細胞の生存や薬剤感受性、造腫瘍性にどのように関わるのかを解明することを目的とする。 そのために、CRISPR/Cas9システムを利用してヒト骨髄腫細胞のFAM46Cをゲノム編集し、その表現型を体系的に解析する。さらに、FAM46Cと関連するシグナル伝達経路の解明を試みる。本研究は、骨髄腫細胞の悪性化と進展に関わる病態の解明に活路を開き、抗骨髄腫薬開発のブレイクスルーになると期待される。
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