研究課題
骨髄異形成症候群(MDS)などの造血器腫瘍において、間葉系幹細胞(MSC)を中心とする骨髄微小環境の変化は腫瘍特有の病態の維持に重要な役割を果たしている。これまでに申請者らはMDS細胞がMSCの分化障害を介して正常造血を抑制するネットワークの存在を明らかにした。しかし、多様な集団とされるMSCの分化異常が造血不全を引き起こすメカニズムは不明のままである。そこで本研究ではMDSモデルマウスを用いて単一細胞レベルでMSCを解析・分類し、MDSにおける造血不全の中心となる細胞集団の同定と造血支持低下に果たす役割の解明を目指した。骨髄MSCのscRNA-seq解析からMSCマーカーの一つであるLeptin receptor遺伝子高発現(Lepr-high)の亜集団において顕著なニッチ因子の発現低下や骨芽細胞系列への分化抑制が認められ、それにより骨芽細胞系列にコミットした亜集団が著減することを明らかにした。そこでMSCのscATAC-seq解析を実施することでニッチ因子発現制御機構を検討した。その結果、Lepr-high亜集団で顕著なクロマチン状態の変化が見られ、特に影響が顕著であったCxcl12においてエンハンサーと考えられる領域の活性低下がMDSモデルで確認された。同領域にはMSCの分化制御を司る転写因子の結合モチーフ配列を認めた。これらの知見からLepr-high MSC亜集団は造血器腫瘍の病態に鍵となる役割を果たしており、同亜集団において分化制御に関する転写因子によるニッチ因子発現制御の異常が造血不全を引き起こすことが示唆された。
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International Journal of Hematology
巻: 117 ページ: 821~829
10.1007/s12185-023-03587-x