研究課題
免疫不全関連リンパ増殖性疾患(OIIA-LPD)として発症する悪性リンパ腫の自然退縮に関わる遺伝子異常を明らかにするため,まず自己免疫疾患に対して免疫抑制療法を行われ,かつ悪性リンパ腫を発症し当科にて診断・治療が行われた当院の症例を抽出した.その結果解析が可能であったのは10例で,原疾患の内訳は,関節リウマチ(RA)が8例,皮膚筋炎が1例,overlap症候群が1例,組織型の内訳はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)が3例,ろ胞性リンパ腫(FL) grade 3Bが2例,FL grade 1-2が1例,古典的ホジキンリンパ腫(CHL)が4例であった.さらに,固形臓器移植後のリンパ増殖性疾患(PTLD)として発症した悪性リンパ腫症例のうち,上記と同様に解析が可能であった症例2例を対象に加えた(いずれも腎移植後,組織型はDLBCL).上記計12例について,それぞれの症例のホルマリン固定パラフィン包埋組織から核酸を抽出し,デジタルオミックスアナライザー(nCounterシステム)を用いて,網羅的にmRNAレベルでの遺伝子発現の増減を解析した.上記12例全てで解析に成功し,全遺伝子でクラスタリングを行ったところ,肝臓原発と腸管原発の2例はプロファイルが明らかに異なったため除外し,そのほかの10例(FL・DLBCL 5例,CHL 5例)をID群として,解析に使用することとした.次に,別の研究で同様の解析を行った高腫瘍量FL(HT-FL群)12例とのデータとの比較で,ID群における発現が有意に上昇および低下している遺伝子群を抽出した.その結果,67遺伝子を抽出することができ,そのうち,ID群の中での組織型の別で有意差を認めない47遺伝子が,OIIA-LPDの発症に関連する遺伝子群である可能性が考えられた.
2: おおむね順調に進展している
上記のように,OIIA-LPDの症例のピックアップから,遺伝子発現解析まで研究を進められたことに加え,免疫不全関連でないFLとの比較から,OIIA-LPD発症に関連する可能性のある遺伝子群のリストアップを行うことが出来た.症例の数は少ないものの,クラスタリング解析で発現に有意な差異のある遺伝子群を抽出できたことは意義深く,今後の研究につながる重要な知見を得られたと考えている.
まず,当科にて診断・診療を行ったFL症例のうち,経過中に自然退縮が見られた症例〔自然退縮群〕と,自然退縮は見られず化学療法を要し,さらに再発難治性となり治療を要した症例〔再発難治群〕を抽出する.両群の症例の診断時のFFPE組織から上記と同様に遺伝子発現パターンを抽出し,遺伝子発現の差異を分析する.その結果と,上記OIIA-LPD群で抽出された遺伝子群の間で共通するものは,組織型を問わずリンパ腫の自然退縮に関わる遺伝子と考えられる〔これを「自然退縮因子」とする〕.そこで,様々な組織型由来のリンパ腫細胞株に対して,自然退縮因子の発現亢進・減弱を操作し,増殖抑制,細胞死誘導の有無を解析する.また,2群で共通した遺伝子異常が実際のリンパ腫において見られるかどうかを確認すべく,申請者らのグループが現在進めている悪性リンパ腫登録事業に登録された様々な組織型のリンパ腫の多数例においての臨床病理学的検討を行う.同時に,診断時の臨床検査所見,病期,治療経過,生存の有無など臨床データについて調査,情報収集を行う.自然退縮因子の遺伝子の高発現,低発現によって症例群を分類し,群間における臨床データの差異について解析を行い,予後因子となりえるかどうかを検証する.
物品納品の遅延によって生じたものである。令和4年度請求額と合わせて、物品の納品に必要な経費として使用する予定である。
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Leukemia Research Reports
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Journal of Hematopathology
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