研究課題/領域番号 |
21K16270
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
栗田 大輔 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 特定研究員 (70790294)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1) / 成人T細胞白血病リンパ腫 / エピゲノム / スーパーエンハンサー / Tax / 細胞骨格 |
研究実績の概要 |
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染細胞は非感染細胞と接触すると、感染細胞の細胞骨格が変化しウイルスシナプスを形成して感染細胞から非感染細胞へHTLV-1が直接伝播することが提唱されている。また癌遺伝子Taxの発現が細胞内シグナルとなりウイルスシナプスの形成を誘導することも報告されている。 本年度はこれまで得られた結果に加え、一過性Tax発現・宿主エピゲノム変容に伴うHTLV-1感染細胞の細胞骨格変化に着目して研究を推進した。HTLV-1細胞株では一過性Tax発現に伴い、アクチンフィラメント形成に関与する遺伝子群の有意な発現増加を認めたが、微小管動態に関与する遺伝子群の有意な発現増加は認めなかった。HTLV-1感染患者の末梢血単核球細胞を用いたシングルセルRNA-seq解析ではTax発現によりアクチンフィラメント形成に関与する有意な遺伝子発現増加およびパスウェイの濃縮を認めた。 アクチンフィラメントは細胞骨格の主要構成因子で細胞の形態変化や運動に関与する。本研究ではアクチンフィラメント形成に関与する遺伝子のうち、Tax発現細胞で特に有意に発現増加を認めたLSP1遺伝子に着目した。 HTLV-1細胞株を用いてLSP1の遺伝子発現を抑制した結果、有意に細胞増殖を抑制し、遺伝子発現解析では酸化ストレスに対する反応、サイトカイン刺激による細胞応答などのパスウェイが有意に低下した。 またLSP1の発現抑制によりHTLV-1感染細胞から非HTLV-1感染細胞へのHTLV-1の感染効率を有意に低下させた。以上の結果からHTLV-1感染細胞ではTaxの一過性発現に伴いアクチン動態を制御することで、細胞の形態変化を誘導し、細胞間のHTLV-I伝播を促進している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までの研究結果に加えて本年度では新たにHTLV-1感染細胞における一過性Tax発現に伴う遺伝子発現変化およびエビゲノム変化の特徴が明らかになり、間歇的Tax発現に伴う宿主細胞形質変化の全容および発現制御機構の解明に寄与する可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は主にHTLV-1感染細胞の一過性Tax発現に伴う細胞骨格の変化、特にTaxとのアクチンフィラメント形成に関与するタンパとの相互作用を検証する。具体的には①Taxとのアクチンフィラメント形成に関与するタンパクとの共免疫沈降②アクチン動態の制御に関与するタンパクを蛍光色素で識別して間欠的Tax発現に伴う経時的な発現変化を解析し、一過性Tax発現に伴うアクチン動態の制御の詳細なメカニズムを明らかにする。 また①Taxの一過性発現に伴う転写因子ゲノム上分布の動態解析のためCUT&TagまたはChIP mentation ②Tax発現に伴う高次クロマチン構造の変化を検証するためのHi-C解析をそれぞれ行う。得られた結果は学会および論文発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
CUT&RUNにてTaxの一過性発現に伴う転写因子ゲノム上分布の動態解析を試みたが、実験手法の確立が困難であっため、今後は別の方法 (CUT&TagまたはChIP mentation)にて検証する予定。また今年度実施に至らなかったTax発現に伴う高次クロマチン構造の変化を検証するためのHi-C解析を行う予定である。
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