研究課題
骨髄増殖性腫瘍 (MPN) は、造血幹細胞にドライバー遺伝子変異が生じた結果、末梢血中の特定の血球の異常な増加や、骨髄の線維化が生じる造血器腫瘍である。患者骨髄では、血小板の前駆細胞である成熟巨核球の著しい増加や形態異常が観察されることから、ドライバー遺伝子変異を獲得した造血幹細胞が分化することで産生された腫瘍性巨核球がサイトカインやエクソソームの産生を介してMPNの病態形成に関与していると考えられている。本研究では、こうした腫瘍性巨核球が、骨髄増殖性腫瘍 (MPN) の発症において果たす役割を解明することを目的としている。そこで、腫瘍性巨核球における遺伝子発現を調べるために、MPN患者の骨髄検体から密度勾配遠心により有核細胞を分離し、その後アルブミン濃度勾配を用いて成熟巨核球を単離した。その結果、1検体あたり数十から数百個の巨核球を得て、巨核球からRNAを抽出、精製した。続いて巨核球RNAからcDNAライブラリを作製し、次世代シーケンサーによるRNA-seq解析を実施した。コントロールとなる正常骨髄由来の巨核球と遺伝子発現比較を行い、MPN患者の巨核球において特異的に発現が変動している遺伝子を複数同定した。これらの変動遺伝子には、MPN患者細胞において活性化しているJAK2-STATシグナル伝達経路の関連分子が含まれていた以外に、白血病細胞において発現増加が報告されているがん関連遺伝子も含まれていた。今後は、MPNに特異的な発現が認められた遺伝子に着目し、機能解析を実施する予定である。
2: おおむね順調に進展している
2022年度は多数の骨髄検体から巨核球の単離、および巨核球RNAの精製を行った。その中から状態の良い巨核球RNAを用いて網羅的な遺伝子発現解析を実施し、MPN患者の巨核球において特異的に発現が変動する遺伝子を同定した。さらに同定した発現変動遺伝子について、MPN発症への関与を明らかにするため、遺伝子の機能解析の準備を進めており、本研究は計画通りに進んでいるといえる。
MPN患者の成熟巨核球において特異的な発現が認められた遺伝子について、MPN発症における発現の意義を解明するために、今後は以下に示す機能解析(1)-(3)を実施する。(1) マウスの造血幹細胞にMPNを発症させるドライバー変異遺伝子を発現させて作出する骨髄移植モデルマウスや、MPNドライバー変異遺伝子を造血器で特異的に発現するコンディショナルモデルマウスから巨核球または血小板を精製し、同定した遺伝子が特異的に発現することを確認する。その上で、骨髄移植モデルマウスにおいて、RNA干渉により、同定した遺伝子の発現を抑制した際に、MPNの表現型が減弱することを示す。さらに、同定した遺伝子をPf4-Creマウスを用いて巨核球特異的に発現した際に、骨髄中の造血幹細胞や前駆細胞、あるいは細胞外マトリクスといった骨髄環境に生じる変化を明らかにする。(2) 巨核球系細胞株を用いて、同定した遺伝子の発現抑制株または過剰発現株を作成し、細胞増殖アッセイや蛍光免疫染色法による細胞観察等を通して、それぞれの遺伝子の細胞増殖への影響や細胞内局在等を解析する。(3) MPN患者由来の造血幹細胞における解析対象遺伝子の発現を、RNA干渉法 (ノックダウン) およびゲノム編集 (ノックアウト) により抑制し、巨核球分化や細胞増殖に与える影響についてフローサイトメトリー解析やコロニーアッセイにより評価する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Scientific Reports
巻: 11 ページ: 17702
10.1038/s41598-021-97106-9