昨年度に単離・クローニングすることに成功した、がん遺伝子変異に由来するHLA-A*24:02拘束性多発性骨髄腫変異ペプチドに対するTCR遺伝子を用いて、その遺伝子治療が抗腫瘍効果を発揮するかどうかを検討した。HLA-A*24:02健常人由来のPBMCを用いて、TCRを導入したTCR-T細胞を作成した。このTCR-Tが、変異ペプチド依存的に標的細胞を殺傷できるかどうか、並びにHLA-A*24:02陽性がん遺伝子変異陽性の多発性骨髄腫細胞3種に対して殺傷効果を持つかどうかを、in vitro killing assayにより検討した。その結果、このTCRは、変異依存的に細胞傷害活性を発揮し、また、内在性の変異タンパク質を発現する多発性骨髄腫細胞に対しても細胞傷害活性を持つことが明らかとなった。そこで、本研究で取得されたTCRが、生体内でも多発性骨髄腫を抑制することができるかどうかを、免疫不全マウスを用いて検討した。具体的には、ルシフェラーゼでラベルした多発性骨髄腫細胞を作成し、マウスに移植する。TCR-Tを細胞治療として移入し、多発性骨髄腫の増殖を化学発光を検出することで検討した。その結果、TCR-T移入群において、T細胞のみを移入した群に比べて、有意に多発性骨髄腫増殖の抑制が確認され、またその生存期間もわずかながらに延長された。 本研究により、がん特異的な遺伝子変異に由来するネオ抗原に対して、健常人末梢血よりネオ抗原ペプチドを認識するTCR遺伝子配列を単離・クローニングすることが、経済的にも労力的にも容易となった。また、実際に取得されたTCRが、実験的モデルではあるものの多発性骨髄腫の増殖を抑制できることを明らかとした。多発性骨髄腫に対してネオ抗原TCR-Tの有効性を示したのは世界的にも新しい試みであり、ますますの応用が期待される。
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