本研究の目的は、胸腺腫症例のT細胞の遺伝子変異プロファイルを網羅的遺伝子解析により明らかにし、胸腺腫および関連する自己免疫疾患の診療に有用な新規指標を確立することである。 先行研究においてCD4陽性細胞とCD8陽性細胞に分けて全エクソン解析を行い、結果を比較することでCD4陽性細胞、CD8陽性細胞それぞれに特徴的な遺伝子群を同定していたが、それに細胞シグナル伝達、細胞増殖、細胞周期といった機能に関連する遺伝子やT細胞性リンパ腫、クローン性造血などに重要な影響をもつと考えられる遺伝子等を加え、52遺伝子からなる遺伝子解析パネルを作成した。続いて、胸腺腫を含む、のべ132症例の末梢血単核球からDNAを抽出し、作成したパネルを用いてライブラリ化し、ターゲットシーケンスを行った。変異アリル頻度が高い遺伝子についてはダイレクトシーケンスで確認を行った。以前の研究と結果を比較し、解析方法の妥当性を確認した。遺伝子多型やエラーと考えられる変異の除去を行った結果、各症例ごとに中央値で3個の体細胞遺伝子変異を同定し、STAT3遺伝子を含む41遺伝子が複数症例で変異していた。特に、クローン性造血に関わる複数の遺伝子の変異が高頻度に認められた。赤芽球を合併した胸腺腫では他の病型と比較し、変異遺伝子数が少ない傾向があった。一部のクローン性造血関連遺伝子の変異陽性例では免疫抑制療法後に再発しやすい傾向がみられた。また、クローン性造血関連遺伝子の中には経過とともに変異が消失したり、逆に新たな変異を獲得するものがあり、難治化に関連していると考えられた。
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