ナノポア技術は、直径3μmの貫通孔を微生物が通過する際の電流-時間波形を計測し、AI識別を組み合わせることで、病原体を同定する新規の病原体検出技術である。それらの技術を抗酸菌の識別に適応し、迅速な抗酸菌診断が可能となる検査系の開発を目的とした。菌株は、臨床で分離されたMycobacterium abscessus(M. abscessus)、M. avium、M. intracellulare、BCG株や、M. kansasiiを用いた。Middlebrook7H9培地を用いた培養検体では、抗酸菌特有のcluster形成(cord形成)が顕著であり、直径3μmの貫通孔は通過せず、cluster形成をいかに阻害するかが重要であると考えられた。 貫通孔を通過する様子を直接顕微鏡下に観察する実験系を確立し、菌体が実際に貫通孔を通過する様子を視覚的にとらえることに成功した。培養時間を様々な条件を変え、培養液中の菌量の目安とし、吸光度を測定したところ、通常の培養時間(約1週間~)よりも短期間でナノポア計測には十分な菌量が得られ、cluster形成を改善できた。これは、ナノポア技術を用いた検査により、従来の検査時間よりも短縮できる可能性を示唆していると考えられた。 MGIT法を用いた培地で、界面活性剤(tween20、塩化セチルピリジニウム(CPC))を入れ、cluster形成そのものを阻害する検討を行った。界面活性剤の濃度をあげると、cluster形成は抑えられるものの、得られる菌量が大きく減少し、安定的な培養が困難になった。条件の安定化が困難な理由の一つとして、NTMの菌種ごとの特性の違いや同菌種間でも菌株による違いも大きいことが挙げられた。今後、NTM研究を進めていく中で、このような菌種間の特性の違いの大きさに着目する必要があることが強く示唆された。
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