研究課題/領域番号 |
21K16325
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
入江 隆夫 宮崎大学, 農学部, 准教授 (20753833)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 血中循環核酸 / エキノコックス / 肺吸虫 / 診断系 |
研究実績の概要 |
第一年度は特にエキノコックスを対象として研究を実施した。多包条虫卵を感染させたコットンラットの、感染後2か月(5検体)および5か月以降(4検体)の血液からccfDNAを抽出し、濃度を確認後、次世代シークエンス解析に供した。得られたccfDNA量は血漿1 mlから0.6 ng~11.5 ng と微量かつばらつきがあったが、すべての検体でショットガンシークエンスが可能であった。各検体について約500万リードを得て、多包条虫のゲノム配列にマッピングを行ったところ、0.5%ほどの配列が相同性を示した。このうち、多包条虫特異的であり、かつリード数が多いものを選別し、リアルタイムPCRでの検出系を検討している。現時点では診断系の候補配列の決定には至っていないが、検討したうちの1配列では、多包虫が十分に成熟して原頭節の形成のみられる感染5か月以降の検体において、極めて高感度に検出可能となるリアルタイムPCR系が得られている。引き続き他の配列についても評価を行い、感染初期を含む全期間にわたり検出可能となる検出系を構築を目指す。 肺吸虫については、実験感染に用いる肺吸虫種を、当初予定していた大平肺吸虫から、人獣共通種である宮崎肺吸虫に変更した。疫学調査により、当該種のメタセルカリアを保有する淡水産カニの分布地を特定したので、第二年度にはラットへの実験感染、血液検体の採取とccfDNAの抽出、そしてショットガンシークエンスを実施する。 野生動物の疫学調査の過程で、タヌキのウエステルマン肺吸虫3倍体、アナグマの宮崎肺吸虫の感染例を見出した。加えて、当該タヌキの取得地点に近接する川で、中間宿主であるモクズガニを捕獲してメタセルカリアの保有状況を調査したところ、高率かつ濃厚なウエステルマン肺吸虫3倍体メタセルカリアの感染を認め、同地点で確かに生活環が維持されていることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エキノコックスについては、次世代シークエンス解析、およびそれに続くマッピング等の解析を滞りなく完了した。候補配列の選別、ならびにリアルタイム系の構築が可能かどうかのin silicoでの評価は途中ではあるものの、試行したうちの1配列では感染後期には高感度に検出可能である条件を見出したことから、第一年度としては十分な成果を得られていると考えられる。 肺吸虫については、使用する寄生虫種を変更したことで、今年度の幼虫入手と感染実験開始には至らなかったが、動物実験の承認は得ており、また宮崎肺吸虫感染カニの採集できる地域を特定できたことから、新年度速やかに感染実験を開始できる。
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今後の研究の推進方策 |
エキノコックスについては引き続きin silicoでの解析を続け、候補配列が見つかるごとに、リアルタイムPCRによる検出系を構築し、実際に検出可能か評価する、という一連の検討を繰り返す。最終的には、感染初期を含むすべての検体で検出可能であり、最も高濃度に含まれるccfDNA配列を特定する。 肺吸虫については、宮崎肺吸虫の感染実験を実施し、感染の早期および慢性期の血液検体を得る。これを用いて、エキノコックスでの検討と同様に、ccfDNAの抽出、ショットガンシークエンス解析、診断系候補配列の選定を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
検出系候補となるccfDNA配列が選別され、リアルタイムPCR系のin silico検討が良好であった際には、速やかにプローブ合成を受託、購入し、検体での評価を実施していた。年度末ではあるが3月にもう1配列について評価に至る予定であったが、in silicoの結果が芳しくなく、見送ることになってしまっため、プローブの発注費である約2万円を持ち越すこととなってしまった。当該検討は継続されており、第二年度に改めてプローブの購入に使用する。 第二年度予算は、当初の計画通り、エキノコックスのリアルタイムPCR検出系の検討の継続のほか、肺吸虫の実験感染ならびに採取した検体の次世代シークエンス解析関連費用が主たる支出予定である。また、エキノコックスに関する成果について学会発表ならびに学術誌への投稿を目標としており、その予算を計上している。
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