研究課題/領域番号 |
21K16330
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
小谷 治 国立感染症研究所, 病原体ゲノム解析研究センター, 主任研究官 (00769581)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エンテロウイルス / カプシド蛋白質 / 構造ゆらぎ |
研究実績の概要 |
カプシド蛋白質はウイルス粒子を構成する主要蛋白質の一つである。カプシド蛋白質の変異は、ウイルスの宿主への感染や免疫逃避など様々な生物活性の変化につながる。しかし、変異がカプシド構造に与える影響を記述する構造情報は少ない。そのため変異がウイルスの性質変化を誘導する分子機序の多くは謎のままである。本研究では、エンテロウイルスA71(EV-A71)のカプシド蛋白質をモデル分子とし、計算科学と実験を併用したアプローチで、変異がカプシド構造とウイルス生物活性に与える影響を調べる。特に、EV-A71の多彩な生物活性を変えるカプシド蛋白質VP1の145番目のアミノ酸残基(VP1-145)に着目する。初年度は、EV-A71カプシドモデルの構築とEV-A71変異導入解析法の構築を行った。はじめに、既知のEV-A71カプシド蛋白質構造を鋳型にして、ホモロジーモデリング法により、VP1-145Gと145Eと145Qのアミノ酸置換を伴うカプシド蛋白質五量体モデルを構築した。それらのモデルを用いて、分子動力学(MD)シミュレーションを200 nsまで実施し、溶液中で準安定な構造を獲得した。次にMDシミュレーションから得られたトラジェクトリー(時系列座標)データを用いて、RMSF値を算出した。その結果、変異導入したVP1-145領域から物理的に離れたカプシド表面の構造ゆらぎが変異の種類によって変化することがわかった。さらにカプシド五量体分子内のアミノ酸残基の動態について調べた。その結果、VP1-145と連動して同じ方向あるいは反対の方向に動くアミノ酸残基が複数存在することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
巨大分子であるEV-A71のカプシド蛋白質五量体モデルのMDシミュレーションの解析環境を整備することができた。しかし、予定よりMDシミュレーションの計算条件の検討に時間がかかり、宿主分子との複合体モデルの構築及び実験でのウイルスの生物活性評価系の構築が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
計画どおり、実験での変異ウイルスの生物活性評価系の構築をすすめる。さらに計算科学アプローチでは、既知の複合体構造情報を鋳型にして、EV-A71カプシド蛋白質五量体と各種抗体Fabおよび宿主受容体の複合体モデルとその変異体モデルを構築し、MDシミュレーションを実施し、それぞれの準安定構造の取得を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末納品等にかかる支払いが、令和4年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実施支出額に計上予定である。令和3年度分については概ね使用済みである。
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