カルシウム(Ca)は生体に必須であり副甲状腺から分泌される副甲状腺ホルモン(PTH)により厳密に制御されている。我々は副甲状腺機能低下症に対する、より安全で生理的な治療を目標に副甲状腺再生を試みた。臓器再生の方法の一つに遺伝子ノックアウトを行った動物胚に多能性幹細胞を注入し、欠損した臓器を完全に多能性幹細胞由来に置換する胚盤胞補完法がある。本研究では胚盤胞補完法を用い、新たな内分泌臓器再生の展開を目指した。マウス前核期胚に対しエレクトロポレーションによりGcm2を標的としたguide RNAおよびCas9を導入しGcm2ノックアウトマウス胚を得て、副甲状腺欠損の表現型を確認した。また、同定が難しいマウス副甲状腺を可視化するためにPth-tdTomatoレポーターマウスES細胞を開発し、Gcm2ノックアウト胚にES細胞を注入してキメラマウスを作製した。得られたキメラマウスにはtdTomatoを発現する副甲状腺が認められ、副甲状腺はES細胞由来であることが示唆された。キメラマウスは正常な血中Caを維持し長期にわたって生存した。さらに臨床上、副甲状腺機能評価法として知られる重炭酸ナトリウム負荷試験を施行した結果、低Ca刺激に応じてPTH分泌を認めた。以上より、マウスES細胞により補完された副甲状腺は血中Caに応答する機能的な臓器であると考えられた。次に、キメラマウス体内で作製されたマウスES細胞由来の副甲状腺を副甲状腺機能低下症モデルマウスの腎被膜下へ移植した結果、血中Caや血中PTHの反応性に改善がみられた、このことは本法で作製された副甲状腺が移植臓器としても有用であることを示している。最後に、Gcm2ノックアウトラット胚を作製し、異種間胚盤胞補完法を試み、Gcm2ノックアウトラット内でマウス多能性幹細胞由来の副甲状腺を作製した。
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