研究課題/領域番号 |
21K16340
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福田 士郎 大阪大学, 大学院医学系研究科, 助教 (00896467)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | T-カドヘリン / アディポネクチン / エクソソーム / 血中可溶性T-カドヘリン |
研究実績の概要 |
申請者は、脂肪細胞特異的分泌因子アディポネクチンと特異的に結合する膜タンパク質であるT-カドヘリン(T-cad)について、その可溶型フォームの血中濃度制御・動態ならびに生理的・病態的意義について研究している。今年度は以下の検討を行った。 (1) 可溶型T-cadの生成・動態:膜型のT-カドヘリンを発現しているマウス血管内皮細胞株や初代ヒト血管内皮細胞を培養し、様々な添加物を処理しその培地上清をT-cad ELISAで解析した。その結果、ケトン体を添加した際に培地中の可溶型100kDa体T-cadが増加した。しかしケトン体を添加することにより培地のpHが酸性に傾いてしまい、これが細胞に影響を与えた可能性を考慮し、ケトン体のナトリウム塩を用いて再検討する。 (2) 可溶型T-cadの機能:マウスを用いた検討で、血中T-cad濃度は高脂肪食による肥満モデルで低下し、ストレプトゾシンによる高血糖状態で増加することを明らかにした。さらに、可溶型T-cadを投与したマウスでは、高血糖状態においてNotch経路の活性化を介して膵β細胞の増殖作用を発揮することを明らかとした[Okita, Kita, Fukuda et al. iScience 2022]。 (3) ヒト血中T-cad濃度の検討:ST上昇型心筋梗塞患者では、経時的かつダイナミックに血中T-cad濃度が変化することを明らかにした[Iioka, Fukuda et al. JAT 2022]。一方、ヒトにおける血中T-cad濃度の「基準値」は不明である。そこで、人間ドック施設を有する学外病院と共同研究を締結し、人間ドック受診者が採血検査を受けた際の残余血清を回収し、その血中T-カドヘリン濃度を測定し、各種臨床パラメータとの相関を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の通り[Okita, Kita, Fukuda et al. iScience 2022]、動物モデルにおいては可溶型T-カドヘリンが何らかの生理作用を有する可能性を見出しているが、そもそもの可溶型T-カドヘリンの生成機序や生理作用を示す分子的機序については不明なところが多く、今後の検討課題である。また人間ドック受診者を対象とした臨床研究はコロナ禍の影響で受診者数の制限ならびに減少(一部受診者がコロナウイルス感染のため受診されなかった)があったため、症例蓄積に時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
・可溶型T-カドヘリンの生成機序の解明:マウスを用いた検討では、絶対的インスリン枯渇状態で血中T-カドヘリンが増加したことから、可溶型T-カドヘリンの血中濃度制御は糖およびインスリンだけでなく、ケトン体の関与も示唆される。このことについて、膜型T-カドヘリン発現細胞に対し(1)培地pHに影響を与えないナトリウム塩のケトン体、(2)D体もしくはL体のケトン体を添加し、培地中の可溶型T-カドヘリン濃度が変化するかどうか検討する。 ・人間ドック受診者を対象とした臨床研究は症例数蓄積が概ね完了したので、血中T-カドヘリン濃度を測定し、臨床パラメータとの相関について検討する。 ・探索的検討においては、大動脈縮窄による圧負荷心不全モデルマウスに可溶型T-カドヘリンを強制発現すると心肥大が抑制されるという結果が得られている。また心筋梗塞患者で血中アディポネクチン濃度[Natsukawa et al. JAT 2017]だけでなく可溶型T-cad濃度も一過性に低下することを報告[Iioka Fukuda et al. JAT 2022]しており、急性期における可溶型T-cadの意義を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は概ね順調に進展しているが、研究費に端数が生じたので次年度に繰り越して使用する。
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