研究課題
研究代表者は、嗅覚受容体の一つであるOLFR15がマウス膵β細胞に発現し、膵臓からのグルコース応答性インスリン分泌の促進に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。さらに、ヒト膵島にもOLFR15の相同遺伝子であるOC2C1が発現していることを見出してきた。これらの知見に基づき、ヒト膵島に異所性に発現する嗅覚受容体の糖代謝における役割や病態への関与を解明するとともに、糖尿病の治療応用へ向けた戦略開発につなげることを目的として検討を進めた。まず、ヒト膵島からRNAを抽出し、RNA-seqを用いた網羅的遺伝子発現解析を実施した。その結果、OR2C1を含む22種の嗅覚受容体のヒト膵島への発現を見出した。その内OR2A7, OR5K2の発現量はOR2C1よりも多いことが明らかとなった。次に、ヒト膵臓の組織を用いて、OR2A7, OR5K2, OR2C1のヒト膵島における蛋白の発現を検討した。OR2A7, OR5K2, OR2C1は全てヒト膵島に発現するものの、いずれも膵β細胞とは異なる細胞に発現することが明らかになった。この結果から、少なくともOR2A7, OR5K2, OR2C1はヒト膵島において直接的なインスリン分泌の調節に関与しないことが示唆された。一方、ヒト膵島の供給が滞った影響で解析は進んでいないが、いずれの嗅覚受容体もヒト膵島を構成する細胞に発現していたことから糖代謝に寄与する可能性については今後の解析が期待される。また、遺伝子発現が示唆されたその他の嗅覚受容体がインスリン分泌に関与する可能性は残っている。今回得られた結果からは、ヒトではマウスで認められた膵β細胞における嗅覚受容体を介したインスリン分泌機構が保存されていない可能性が示唆された。今回の成果をもとにヒト膵島における嗅覚受容体の糖代謝制御機構への役割の更なる解明が期待される。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Journal of Diabetes Investigation
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実験医学
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