研究課題/領域番号 |
21K16351
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
佐藤 さつき 福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 助教 (70444221)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 洞結節細胞 / 脂肪滴 / 洞機能不全 / 徐脈 / ペリリピン2 |
研究実績の概要 |
糖尿病や肥満症、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病では心筋細胞内に脂肪滴が蓄積し(脂肪心筋)、心機能障害の要因となる。これらの生活習慣病では心房細動(AF)や、洞結節機能不全(sinus node dysfunction:SND)といった不整脈の有病率が高い。また、AFとSNDは器質的な心疾患や遺伝的素因に加えて、加齢・肥満・糖尿病・高血圧といった多数の因子による心筋細胞の構造的・電気的リモデリングが不整脈基盤となり発症する不整脈である。 代表者らは“ 脂肪心筋”を呈する心筋 Perilipin (PLIN) 2-過剰発現マウス: PLIN2-Tgを作製し、心筋細胞内の脂肪滴がAFの発症要因となることを報告した。このマウスは徐脈傾向であり、SNDの存在が示唆された。PLIN2-Tgの電子顕微鏡解析では洞房結節細胞内には脂肪滴が認められ、脂肪滴の蓄積と徐脈には何らかの関連があるものと推察している。 本研究課題では、脂肪滴蓄積による洞房結節の構造的、電気的リモデリングを解析し、心筋細胞内の脂肪滴が洞結節機能不全を惹起するメカニズムを解明する。 令和3年度に施行した脂肪滴蓄積による洞房結節細胞の構造的リモデリングの解析では電子顕微鏡解析にてPLIN2-Tg の洞房結節細胞内に脂肪滴の蓄積とCa2+貯蔵を担う筋小胞体 (SR)の膨化を認めた。電気的リモデリングの解析として行った洞房結節細胞の機能解析において、 PLIN2-Tgではlocal calcium release、Ca2+ transient amplitudeの増加が認められた。また、細胞内、ミトコンドリア内のROS(reactive oxygen species)の検討では、PIN2-TgではWtと比較しミトコンドリアROSの増加がみられた。洞結節からの遺伝子抽出を令和4年度に施行し、令和5年度より遺伝子発現解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
脂肪滴蓄積による洞房結節細胞の構造的リモデリングの解析:①洞房結節細胞の組織学的検討:電子顕微鏡解析。Wt・PLIN2-Tgの洞房結節細胞を組織学的に検討した。PLIN2-Tg の洞房結節細胞内に脂肪滴の蓄積とCa2+貯蔵を担う筋小胞体 (SR)の膨化を認めた。 脂肪滴蓄積による洞房結節細胞の電気的リモデリングの解析:①洞房結節細胞の機能解析: Wt・PLIN2-Tgよりそれぞれの洞房結節細胞を単離し、Ca2+イメージング法により局所Ca2+放出 (LCR:local calcium release) を記録。また、パッチクランプ法により膜電流を計測し、各群間で比較解析を行った。PLIN2-TgではLCR、Ca2+ transient amplitudeが増加した。両群間で細胞内ROS(reactive oxygen species)、ミトコンドリア内ROSを測定したところ、PIN2-TgではWtと比較しミトコンドリアROSの増加みられた。 令和4年度にはIn situ RT-qPCRによる遺伝子発現解析を行う予定としていたが、洞結節細胞を用いたIn situ RT-qPCRが困難であり、洞結節細胞から遺伝子を抽出する方法に変更した。しかし、マウスの洞結節細胞からの遺伝子抽出に難渋し、複数の方法を行い安定的な遺伝子抽出を行う方法について検討した。遺伝子発現解析に十分な量の遺伝子を抽出することが可能となっため、次年度に洞結節細胞の遺伝子発現解析を行う予定である。 令和5年度には洞結節細胞の遺伝子発現解析に加え、当初予定していた高血糖状態における脂肪滴蓄積と洞結節細胞機能の解析 :糖負荷による洞結節細胞機能の解析、Wt・PLIN2-Tgに加え、PLIN2/cHSL(PLIN2-Tg/ホルモン感受性リパーゼ過剰発現)ダブルトランスジェニックマウスの3群を用いて研究を施行する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
脂肪滴蓄積による洞房結節細胞の構造的リモデリングの解析:①洞房結節細胞の組織学的検討:電子顕微鏡解析。Wt・PLIN2-Tg・PLIN2/cHSLの洞房結節細胞を組織学的に検討し、免疫染色を行いコネキシン43の局在を評価する。 脂肪滴蓄積による洞房結節細胞の電気的リモデリングの解析:①洞房結節細胞の機能解析: Wt・PLIN2-Tg・PLIN2/cHSLよりそれぞれの洞房結節細胞を単離し、Ca2+イメージング法により局所Ca2+放出 (LCR:local calcium releas) を記録。また、パッチクランプ法により膜電流を計測し、3群間で比較解析を行う。②遺伝子発現解析(RT-qPCR):洞房結節細胞から抽出した遺伝子における洞結節機能との関連が報告されているSCN5A、HCN2、HCN4、RYR2、CASQ2、GJA1(Cx43)、GJA5(Cx40)の遺伝子発現を解析する。③CaMKII活性の測定:Wt・PLIN2-Tg・PLIN2/cHSLの洞房結節細胞における活性化CaMKIIをWestern blot法にて解析する。 マウス1匹から得られる洞結節細胞が少なく、Western blot法を施行するために十分な量の蛋白を抽出することが困難な可能性がある。その場合には洞結節細胞の免疫組織染色を試みることを検討している。また、CaMKII阻害薬であるKN-93を投与し、洞房結節の機能解析を行う。 高血糖状態における脂肪滴蓄積と洞結節細胞機能の解析 ①糖負荷による洞結節細胞機能の解析:糖尿病を想定した高血糖+細胞内の脂肪滴蓄積を模倣するため、Wt・PLIN2-Tg・PLIN2/cHSLの洞房結節細胞にグルコースを負荷して洞結節機能を比較解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度にはマウスの洞結節細胞の遺伝子抽出を行い遺伝子発現解析を行う予定であったが、洞結節からの遺伝子抽出に難渋している。全体的に実験計画に少し遅れがでており、2023年度に遺伝子発現解析を行う予定である。 また、旅費として申請していた費用は、COVID19の流行の持続により、学術集会にオンラインで参加したため使用しなかったが、2023年度は現地での学会参加を複数予定しており旅費として使用予定である。
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