研究課題/領域番号 |
21K16368
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉山 摩利子 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (70823540)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高脂肪食 / 視床下部 / グリア細胞 / 炎症 / 自発運動 |
研究実績の概要 |
肥満発症の機序として、高脂肪食(HFD)を摂取すると体重増加に先行してグリア細胞の活性化が生じる。その結果、視床下部で炎症が惹起され体重調節を担う視床下部ニューロンに機能異常が生じることで肥満形成の起点となることが知られている。肥満治療に用いられる運動療法は、HFD摂取に伴う視床下部炎症に対して抑制的に働くことが示唆されているが、その詳細な機序は明らかではない。本研究では、HFD投与下でマウス用ホイールを用いた自発運動を行い、運動負荷が視床下部炎症に与える影響を炎症の起点となるグリア細胞に着目して解析する。 HFD投与下で運動の有無がグリア細胞に与える影響の評価として、成獣後のC57BL6マウスを4群に分け、普通食、普通食+自発運動(Ex)、HFD、HFD+Ex群を作成し4週間飼育した。4週後、HFD群の体重は他の3群と比較して有意に増加したが、HFD+Ex群は普通食群と同程度であった。また、視床下部におけるグリア細胞および炎症性サイトカインの発現を評価したところ、HFD投与に伴うグリア細胞の活性化はExにより有意な抑制をきたした。免疫染色法によるグリア細胞の形態を評価したところ、HFD投与に伴うグリオーシスはExにより抑制されたことが確認された。糖代謝に関して、HFDとHFD+Ex群においてブドウ糖負荷試験を施行したところ、HFD+Ex群はHFD群と比較して有意な耐糖能の改善を認めた。ブドウ糖負荷試験時のインスリン濃度を測定し、HFD+Ex群ではHFDと比較してインスリンの過分泌が改善していることを認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
HFD群において、脳内の各部位(視床下部、中脳腹側被蓋野、線条体および海馬)で生じた炎症およびインスリン抵抗性が運動によって改善されるか否かの検証に関するデータ取得が遅れている。また、糖代謝に関して、インスリン感受性評価のためにグルコースクランプ法を行う予定であったが、本報告提出時にデータ取得が完了し、現在統計解析中である。進捗遅延の要因として、コロナ禍による大学研究活動の自粛および研究代表者が臨床業務におけるコロナ対応に追われて多忙を極めたことが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
HFD群とHFD+Ex群において、インスリン感受性評価目的で行ったグルコースクランプのデータを解析し、自発運動によりインスリン感受性が改善するか否かを検証する。次に、HFD群において、脳内の各部位(視床下部、中脳腹側被蓋野、線条体および海馬)で生じた炎症が運動によって改善するか否かを検証する。改善した場合、その機序としてグリア細胞の機能変化に着目して解析する。解析には、qRT-PCR、ウエスタンブロット、免疫染色およびmagnetic-activated cell sorting(MACS)法を用いる。また、運動負荷後にインスリン(10-5 M、2.0 μL)を脳室内投与し、15分後にマウスから脳を取り出し視床下部、中脳腹側被蓋野、線条体および海馬の各部位におけるIRβおよびAktのリン酸化をウエスタンブロットおよび免疫染色法で評価する。運動負荷後の経時的変化を評価するために、運動後3日、1週、2週、4週のデータを取得する。
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