本研究の目的は、消化管、肺、腹壁および横隔膜等の補強修復手術において生じる線維化を抑制し、組織再生を促進させる新規ペプチドの取得と、線維化をin vitroで評価するための基盤技術の構築である。昨年度までに、候補ペプチドの線維化・癒着の評価を行うためのin vitro/in vivoモデルを構築した。 今年度は、配列の単純な短鎖ペプチド(アミノ酸trimer)20種類を配したペプチド修飾アレイを用いて、筋線維芽細胞分化抑制ペプチドのスクリーニングを行った。この結果、様々なペプチド修飾表面によって、in vivoの線維化組織で生じる線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化を制御するようなin vivoアッセイモデルの開発に成功した。特にペプチド配列(Ac-RRR-YKYKYなど)の修飾界面では、筋線維芽細胞への分化の程度を調節できることが示され、この効果は遺伝子発現からも確認された。このペプチド修飾効果の原理を理解するため、配列から各配列の物理化学的高次元特徴量を計算して線形モデル化した結果、物理科学的特徴の特定の組合せが見いだされた。これは、線維化で生じる筋線維芽細胞分化に、物性のメカノシグナルが影響を持つ可能性を示唆する発見である。またこの結果は、従来in vivoでしか評価の難しかった瘢痕化や線維化の促進・阻害評価を、ペプチド修飾in vitroモデルで代替できる可能性でもあり、医療機器材料創出や創薬スクリーニングへの応用が期待された。研究の最後で、分化抑制ペプチドを医療機器材料PCL薄膜へ修飾したところ、ペプチドの分化抑制効果が低下することがわかった。原因としては、ペプチドの物性と、修飾対象となる材料の物性との相性の問題が考えられ、今後ポリマーとペプチドとの組合せ最適化が必要である。今回開発したモデルアッセイ系はその探索に有効なため、今後効率的な物性組合せの最適化研究を進める。
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