トリプルネガティブ乳癌(TNBC)はエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2の治療標的因子が全て陰性の乳癌であり、有効な標的治療法が確立されていない最も予後が悪いサブタイプである。治療標的が見つかっていないTNBCではEGFRの高発現が認められるもののEGFR分子標的治療の臨床的効果は乏しく、EGFRをターゲットにした新しい治療法の開発が望まれている(N Engl J Med 2008)。 申請者は乳癌の中で最も悪性度の高いサブタイプであるTNBCにおいてIL-26が予後不良と相関する可能性をデータベース上で見出し、TNBCにおけるIL-26の役割について着目した。 IL-26は主にTh17細胞が産生する炎症性サイトカインで、自己免疫疾患での発現の上昇が報告されていたが、近年になって新たな機能や標的細胞が続々と報告され、TNBCにおける悪性化亢進への関与も報告されている(Cancer Res 2020)。しかし、IL-26は実験動物に代表される齧歯類で欠損しているため、疾患モデルの作製が困難であり、その役割について未だ不明な点が非常に多い。 本研究では、TNBCにおけるEGFR-TKI耐性獲得に特に重要なIL-26シグナルを特定し、IL-26のバイパス経路活性化のメカニズムを探索することでIL-26のより詳細な役割の解明を行った。本研究により、IL-26はJNKの活性化によってEGFR-TKIによる小胞体ストレスを緩和させ、乳癌のEGFR-TKI薬剤耐性獲得を誘導することを明らかにした。
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