胃癌肝転移はきわめて予後不良な転移形式であるが、有効な治療戦略の構築が進んでいない。本研究では、次世代シーケンサーを用いた網羅的な解析を肝転移に的を絞って応用することで、肝転移に特化した鋭敏な診断マーカーおよび分子標的治療薬の開発につながる新規標的分子に関する知見をさらに深めることを目的として進めてきた。独自の転移形式特異的transcriptome解析から胃癌肝転移関連分子候補として同定したkiller cell lectin like receptor G2 (KLRG2)について、胃癌細胞における機能、肝転移形成能への関与、発現度の臨床的意義を調べた。令和4年度は、以下の成果を得た。 in vitro機能解析として、安定的KLRG2喪失により胃癌細胞株の5-FU感受性が改善した。また、これまでに得てきた発現抑制実験のレスキュー実験としてKLRG2強制発現を行ったところ、癌細胞の増殖能が増加した。シグナル解析として、KLRG2を抑制することで、細胞周期関連分子のリン酸化に干渉することが明らかとなった。in vivo実験として、マウス皮下腫瘍を用いてKLRG2抑制による腫瘍形成能の変化を調べた。KLRG2発現抑制により、有意な造腫瘍能低下を示した。FFPE組織検体を対象に、免疫組織学的染色で組織中KLRG2発現を調べ、その発現度と、再発形式や予後を含めた各種臨床病理学的因子との相関を解析した。組織中KLRG2蛋白強発現症例群では、治癒切除後の累積肝転移再発率が有意に高かった。 これら成果はすでに英文論文化し、現在、国際誌に投稿中である。
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