研究実績の概要 |
先行研究 (Sakabe T, Wakahara M, et al. Sci Rep. 2021) にて乳癌細胞株にてmaspinとserglycinの発現に関連性が示唆された。しかし、ヒト乳癌組織を用いた免疫組織化学にてmaspinとserglycinの発現について検討したが、明らかな相関性を証明することができなかった。免疫組織化学に使用した抗maspin抗体はclone G167-70であったが、Maspin発現と乳癌の予後について検討した過去の研究 (Wakahara M, et al. Anticancer Res. 2017) ではclone EAW24を使用していた。前述の検討結果は各抗体による免疫組織化学の発現の違いが関与している可能性も考慮された。各cloneでのmaspin発現の特徴を確認することは、過去の研究結果との相関性を把握する上で重要な項目と思われた。 2008年1月から2011年12月の期間に外科切除が行われた浸潤性乳管癌症例を対象とした。同一の対象症例にて、clone G167-70とclone EAW24を用いてmaspin発現を確認し、その関連性を検討した。各cloneでmaspin発現パターンが異なり、clone EAW24では細胞質のみの発現が、clone G167-70では細胞質と核への発現が多かった。Clone G167-70を用いた際に細胞質と核へのmaspin発現を認める症例は無再発生存が有意に長く、clone EAW24を用いた際に細胞質のみにmaspin発現を認める症例は無再発生存が有意に短かった。抗maspin抗体については、clone G167-70は予後良好な症例を、clone EAW24は予後不良な症例を選別するのに優れていると推測された。
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今後の研究の推進方策 |
我々はこれまでにヒト乳癌組織において細胞質に発現するmaspinが予後不良であることを報告している (Umekita Y, et al. Int J Cancer. 2002, Wakahara M, et al. Anticancer Res. 2017)。今回の検討によって、maspin発現を評価する抗体 (clone G167-70もしくはclone EAW24) により特性が異なることが把握できた。 この特性を理解したことにより、過去の研究との相関性を確認することも可能となり、先行研究 (Sakabe T, Wakahara M, et al. Sci Rep. 2021, Hosoya K, Wakahara M, et al. Anticancer Res. 2022) で確認したserglycinを含めたmaspin関連タンパクとの相関性を確認する上で有効な知見となることが推測される。 今後の研究により得られる結果をよりスムースに評価できるものと考えられる。
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