研究課題/領域番号 |
21K16406
|
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
須田 一人 順天堂大学, 医学部, 准教授 (60784725)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 胆道閉鎖症 / 肝線維化 / 総胆管結紮 / ラット / 胆管オルガノイド / 脾臓注入モデル |
研究実績の概要 |
胆道閉鎖症においては、肝門部空腸吻合術の成績向上にもかかわらず黄疸が完全に消失しない症例が存在する。その結果、肝移植が適応となることもあるもののドナー不足などの課題があり、自己肝機能を向上させるような新規治療戦略の開発が必要と考えられる。そこで本研究は、動物モデルを利用して胆道閉鎖症に対する新規治療戦略を見いだすことを狙いとし、①胆管上皮に純化したラットオルガノイド培養の確立を目指し、②総胆管結紮による胆道閉鎖症モデルラット脾臓に移植し、生命予後・胆管上皮の組織形態・分子発現変動に着目してその治療効果を明らかにする。 本年度は、①を進めるための予備実験として、既報に沿ってマウス肝から胆管上皮を単離してオルガノイドとして培養する条件検討をおこなった。 コラゲネーゼⅡを用いて細胞を分離させ、遠心分離により胆管細胞のクラスターを収拾した。マトリゲルに溶いて培養したがオルガノイド形成・増殖効率が不十分であった。コラゲネーゼ濃度を変更したものの大きな成果は得られなかったが、顕微鏡下・ディッシュ上で分離した細胞クラスターを観察しながら胆管細胞を識別し、分注操作により胆管細胞を収集する方法を考案したところ、胆管細胞の数が向上しただけでなく血球などの不要な成分の混入を避けられることとなり、非常に効率良く胆管オルガノイドが培養可能となった。現在、肝組織バルク・単離した胆管細胞群・培養した胆管オルガノイドの肝組織上皮発現パターンを解析中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、ラット胆管オルガノイド培養確立に先立ってマウス肝組織を用いた培養方法を開始したが、効率よく胆管上皮を収集することと血球などの不要な成分の混入を避けるための技術的克服に時間がかかった。結果的にコラゲネーゼの濃度について条件検討をしたものの胆管上皮を単離する効率には大きな効果はなかった。しかし、顕微鏡下で直接胆管細胞を識別して分注操作を加えることで胆管上皮細胞収集に関する独自の技術を考案し、安定してマウス胆管オルガノイドを培養する方法を確立し得た。これにより、今後の実験系を進めるための足掛かりとしての結果は得られた。 また、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う実験資材の生産や流通の滞りにより、円滑に実験操作を進められなかったことも原因の一つと考えられた。 まだラットの組織・細胞を用いたオルガノイド培養実験や総胆管結紮モデル作成にとりかかれていないため、進徳状況区分としては「やや遅れている」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度に進めてきた予備実験をもとに、2022年度では予定していた実験系を大きく進める。まず、マウスを用いて得られた胆管オルガノイド培養技術を基礎とし、ラット由来胆管細胞オルガノイド培養法の確立を目指す。既報に沿って胆管細胞の単離条件などを設定する予定だが、積極的にマウス実験で培った独自の胆管細胞単離技術を応用して進めていくつもりである。 続いて、総胆管結紮による胆道閉鎖症モデルラット作成と、そのモデルに対する胆管上皮移植方法の最適化を目指す。これまでに胆道閉鎖症の病態を完全に形容するモデルは確立されていないものの、開腹下に総胆管を結紮することで胆汁うっ滞性肝硬変を誘導する胆道閉鎖症ラットモデルを既報に準じて作成する。血液学的・組織学的肝上皮細胞障害や肝組織線維化の程度を評価し、長期観察死亡率も確認する。 そして、オルガノイド細胞の移植に先立ってラット脾臓内細胞注入法を立ち上げる。すなわち応募者が独自に開発し、高効率に肝内細胞生着が得られる脾臓内細胞注入技術が、胆道系細胞でも同様に有効であるかを、ラット正常胆管性質をもつ肝上皮細胞株(WB-344)を用いて検討する。胆道閉鎖症モデルラットに対して、混濁液に含む胆管細胞株の数、密度、および添加する細胞外基質に関する条件を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、ラット胆管オルガノイド培養確立の予備実験としてマウス肝組織を用いた培養方法を開始し、安定して培養する方法を確立するまでに時間を要したことと、新型コロナウィルスの感染拡大に起因する流通の滞りなどにより、当初予定していた多くの実験系に着手できなかった。よって、想定していた通りに研究資金を使用することが叶わなかったため、次年度分として算出するに至った。 次年度は、ラット由来胆管細胞オルガノイド培養法の確立や、総胆管結紮による胆道閉鎖症モデルラット作成とそのモデルにおける胆管上皮オルガノイド移植方法の確立などを円滑に進めていく予定であり、充分な研究資金が必要となることが見込まれる。
|