研究課題/領域番号 |
21K16409
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
平井 敏仁 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (70722693)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 移植免疫寛容 / Treg細胞 |
研究実績の概要 |
世界各地で臓器移植に対する制御性T細胞(Treg細胞)療法の臨床試験が開始され、実臨床においてもTreg細胞により拒絶反応が制御できる可能性が示唆されている。しかしながら、併用する免疫抑制レジメンの選択にはまだ議論の余地がある。カルシニューリン阻害剤(CNI)は、臓器移植において最も一般的な免疫抑制剤の一つで、T細胞によるIL-2産生を阻害することにより免疫抑制効果を発揮する。その作用機序から、IL-2に強い依存性を持つTreg細胞にも悪影響を及ぼす可能性がある。我々はこれまで、Treg細胞にIL-2シグナルを選択的に補充する戦略として、互いに特異的に結合するが、対応する野生型とは結合しない直交型IL-2(オルソIL-2)サイトカイン/サイトカイン受容体(R)ペアーを細胞工学技術を用いて開発している。本研究ではこのオルソIL-2により、Treg細胞をCNI障害から回復させることができるかを検証する。 Treg細胞をレシピエントマウスから単離し、ex vivoでの増殖させる際にオルソIL-2Rをレトロウイルスを介して遺伝子導入した。骨髄移植と心臓移植を同時に行う混合血キメラモデルマウスに、CNIと、オルソIL-2Rを遺伝子導入されたTreg細胞(オルソTreg)を投与した。CNIはオルソTreg数を減少させたが、オルソIL-2投与により他のT細胞サブセットが刺激されることなく、オルソTreg細胞数のみが増加した。CNI単独治療マウスでは最終的に移植した心臓が拒絶されてしまったが、CNI+オルソIL-2で治療したマウスはCNI中止後も心臓移植片が生着した。これらのデータから、CNIベースのレジメンであっても、サイトカイン受容体工学を利用することでTreg療法を安定的に実施できることが実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスTreg細胞の培養系を確立し、レトロウイルスを用いたオルソIL-2Rの導入に成功した。導入レセプターがオルソIL-2サイトカインに対する生物活性を有することをin vitroで確認することができた。作成されたTreg細胞を3Gyの放射線照射後に骨髄移植を行う混合血キメラモデルマウスに移入し、オルソIL-2サイトカインを投与したところ、移入オルソTreg細胞が特異的に増殖したが、一方でその他のT細胞には全く影響を与えなかった。以上から、オルソIL-2サイトカインが移入IL-2受容体に対する生物学的な選択性が高いことが実証された。さらに、タクロリムスを投与するとオルソTregが減少してしまうが、オルソIL-2サイトカイン投与でTreg細胞数を回復できることが確認できた。一方、より臨床応用に近い実験モデルとして分割リンパ組織放射線照射モデル(Total lymphoid irradiation:TLI)への応用を計画しており、実験用マウスデバイスの作成、納品までは完了したが、動物実験倫理委員会への承認作業、マウス麻酔法の検証などに時間を要しており、本モデルでの実験を開始できていない。
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今後の研究の推進方策 |
本モデルを、米国臨床試験で実際に利用されている分割リンパ組織照射モデルに応用する。米国共同研究施設であるスタンフォード大学との協力のもと、マウス用のデバイス作成までは完了したが、実際のマウスでの条件設定が完了していない。当院放射線照射装置での条件設定を行う。 また、実際の移植臓器内におけるTreg細胞の働きを調べるため、移植腎生検検体の免疫多重染色実験を行う。IL-2受容体を発現する細胞が拒絶反応の際にどのような免疫細胞ネットワークを形成しているのかを明らかにすることで、実臨床におけるIL-2サイトカイン療法の安全性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内外のCOVID19クラスター発生の影響で、実際の研究開始に必要な海外受注物品作成の大幅な遅れ、研究遂行における支障、海外出張中断などがあり、当初予定より支出が少なかった。翌年に遅延した実験(リンパ組織限局照射による骨髄移植実験の条件検討)を行う。また、昨年度までは実行できなかった米国共同研究施設でのミーティング、現地での検証実験を計画する。
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