癌幹細胞は、自己複製能、多分化能、造腫瘍能を有する少数の癌細胞集団で、治療抵抗性を示し、再発や転移の原因となる。本課題は、肝細胞癌患者の血液から循環血液細胞(Circulating Tumor cell: CTC)を採取し、これを培養することで個々の患者に特異的な癌幹細胞を同定・解析を試みる研究である。免疫染色の条件検討にHuh7やPLCなどのHCC細胞株を用いて、複数の候補抗体の中から検出率の高いCK8/18カクテル抗体を使用することとした。採血後、速やかにOncoquick細胞分離液を用いて血球成分を可及的に除去し、特殊ポリマーをコーティングしたスライド上で培養することにより余分な血球成分が遊離して癌細胞が残り、翌日にCK8/18抗体を用いたワンステップ法により免疫染色すると不整かつ腫大した核を有する癌細胞が観察できた。2021年に4例、2022年には8例の肝細胞癌患者から20mlの血液サンプルを回収し、1例を除く11例が解析可能であった。血液中の細胞染色は免疫染色と形態的特徴から全例で癌細胞と思われる細胞を認め、20ml中に4-40個(中央値14個)の癌細胞様の細胞が存在すると計測した。実際、多くの症例で培養によって増殖する細胞がみられ、これらを集めてRNA抽出を行なったが、細胞数が不十分でRNAが分解されてしまいRNA量の測定は当初困難であった。しかし、超微量PCR法を導入し、最終的には半定量的ではあるが各種の遺伝子発現を定量することに成功した。これら肝細胞癌のCTC染色と培養の結果の一部は、他の癌の結果と共に論文報告した。更にシングルセル解析を行うために自動マニュピュレーターでの細胞捕獲法を習得し、シングルセル遺伝子増幅装置C1で培養細胞をトラップさせる条件の最適化についての検討を経てシングルセルレベルでの分析も可能となった。
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