研究課題
本研究の目的は、「高血糖環境下で起こるaPKCの活性化は、細胞間接着構造の消失を誘導し癌遺伝子YAP/TAZ の活性化を介して膵癌細胞の進展を促進する」かを明らかとすることである。糖尿病は、膵癌のみならず各種癌腫の危険因子であることが知られているが、糖尿病、つまり高血糖状態の持続が癌の発生や進展に対してどのように作用するかは不明な点も多い。加えて癌遺伝子YAPは、高グルコース処理した肝癌細胞において糖鎖修飾依存的に活性化され癌細胞の増殖と腫瘍形成能を促進する事が報告されているが、膵癌で同様にYAP/TAZの活性制御経路の活性化が存在するかは不明であった。本研究に先立ち、申請者は膵癌細胞において高グルコース刺激が、上皮間葉転換(EMT)の誘導因子であるSnailの発現上昇とaPKCの活性化、これらに伴う細胞浸潤能亢進に働くことを確認しているが、令和3年度は本研究課題を用いて、膵癌細胞株における高グルコース刺激により、本研究の主題であるYAPの活性型である脱リン酸化YAPが膵癌細胞内で増えることと、YAPの核内移行が促進されることがわかり、YAP/TAZシグナル経路の活性化が生じていることが確認できた。令和4年度は、以上の結果を踏まえ、高グルコース刺激下にaPKCを抑制することで、前述の変化が抑えられるかについて確認を行うと同時に、ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルマウスに対して膵癌細胞移植実験を行い、in vivoでも同様の変化が確認できるかについて評価を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
令和3年度の研究進捗により確認できたことを以下に示す。①高グルコース刺激により、膵癌細胞株において細胞増殖、遊走能が亢進した。高グルコース刺激によりPanc-1、Mia-PaCaにおいて濃度依存的な細胞増殖の亢進が確認でき、Wound healing assayにより、膵癌細胞の遊走能が有意に亢進することが確認できた。②高グルコース刺激により、上記膵癌細胞株Mia-PaCaにおいてaPKCのリン酸化が促進され、YAP/TAZの発現亢進と、YAPの核内移行が促進された。以上の結果から、高グルコース刺激に伴う、膵癌細胞株の極性変化・増殖・遊走能の評価は予定通り確認することができた。その中で、膵癌細胞株におけるaPKCの活性化、YAPの核内移行が惹起されたことから、高グスコース刺激とYAP/TAZ経路の活性化の関係を明らかにすることができた。
令和4年度は、過年度で行った細胞実験を、他の膵癌細胞株で継続すると同時に、ストレプトゾトシン誘発性糖尿病モデルマウスを用いて、膵癌細胞株移植実験を行い、腫瘍形成、浸潤・転移能を検討する。in vivoで得られたサンプルについても、リン酸化あるいは野生型YAPの発現、核内移行状況、EMTマーカーの発現変化を、WB・免疫組織学的手法で検討する。また、aPKC発現抑制しその効果をin vivoでも検討する。また、膵癌患者の腫瘍と病理標本を使い免疫組織化学にて病変(中心部や辺縁部)におけるaPKC活性変化を抗リン酸化抗体にて確認し予後・再発との関係を、100例以上の臨床検体を用いて検討する予定である。
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