本研究課題は「高血糖刺激下に生じるaPKCの活性化が、癌遺伝子であるYAP/TAZ経路の活性化を伴った細胞極性異常を誘導し、膵癌細胞の進展を促進する」かを明らかとすることを目的として行われた。 申請者らは、ニコチンによる細胞極性制御因子であるaPKCの活性化と膵癌進展促進について報告を行っていたが、他の多くの癌腫同様に膵癌においても危険因子とされる糖尿病、すなわち高血糖状態の持続が膵癌進展に対して与える影響に注目し、高血糖刺激の膵癌細胞に対する影響を検証した。 結果、高血糖刺激は膵癌細胞(Mia PaCa2、Panc1)の増殖、遊走、浸潤能を亢進させ、これらの変化にはPI3k-Akt系の活性化とこれによるaPKCの異常な活性化が伴っていることが示された。さらに高血糖刺激は、癌遺伝子YAPの活性化(YAPの核内移行と非リン酸化型YAPの増多)も誘導することがわかった。また、これらの高血糖刺激による膵癌細胞の変化は、aPKC、YAPのそれぞれのknock downによって抑制されることが示され、高血糖刺激による膵癌進展において、極性制御因子であるaPKCの異常な活性化とこれによる癌遺伝子YAP/TAZ経路の活性化が大きく関わっていることが示された。 本研究課題から高血糖刺激によるaPKCの過剰活性化を介した膵癌の発生・進展の分子機構の一つが明らかとなった。また、予後不良な膵癌の新たな標的分子としてのaPKC、あるいは血糖コントロールの重要性が見出されたものと思われた。
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